背景男の青春

人新

第1話 背景男の始まり

小学生高学年の頃だった。

今でもその時のことは覚えている。確か小学生ながらシラノ・ド・ベルジュラックの劇をやったのだ。クラスから明るく人気のある少年はシラノを演じ、イケメンで人気を博す少年はクリスチャンを、可愛くて誰からも妬まれていなかった少女はロクサーヌを。そして、それ以外の人たちは傭兵や町人を演じた。

何となくではあったが、この時点で自分は人にはランク制度というものがあるのだと腐りながらも、子供ながらも少し悟っていた。

だってそうだろ。演じている側はそう見えなくとも、見ている側はきっとそう思うのだ。

透き通るセリフを吐く主人公。人々を魅了にする準主人公。見事な恋心を演じるヒロイン。誰もが彼らを見てこう偏見づけるのだ。『彼らはまさにその役に似合っている』と。

だが、それは当然なのだ。誰もがきっとそう思うし、それを否定することもできないのだ。だから、子供ながら自分はその場所には行けないのだな思った。

だから、俺は末人らしく傭兵や町人のように生きればいいと、自分をそう言い聞かせた。お前は一般の人間なんだと、お前の世界は限られていると、どうあがいても彼らのようになれないと。

そうして、俺は早くも世界を見限った。子供ながらも、夢広がる時期にも関わらずも。

そして、年を重ねて重ねて、この世界をある程度楽に生きるのがどの方法であるのかを考え、考えぬいた。

その期間、俺は色々な生き方を試した。モブ的として人を引き立てたり、主人公やヒロインを助長したり、時には少し重要人物になってみたり。けど、そんな生き方はどうしてか満足できなかった。そんなこともあって、自分は少しアイデンティティクライシスになったりもした。けど、それでも俺には妥協という選択肢はなかった。

 いろいろ試した。自分とは似つかない生き方もした。嫌なことは多くあった、世の中に絶望するほどのことも多かった。味方は少なかった、時には自身が悪役のように感じた。でも、それでもいいようにも思えた。けど、結局は自分の真逆な性格にもなれないことが分かった。どこか心の奥でそんな役を否定するのだ。だから、また考え、考えぬいた。

 主人公、準主人公にはなれず、かと言ってモブキャラには満足してなれず、けど恨まれず、楽に生きれて、アイデンティティを確保できるもの。

俺はそんなものはないと思った。そんな好条件的な生き方はないと思っていた。

けど、あったのだ。窮地に至ったからこそ見つけることができたのだ。

それはなにか? それは俺たちのあたりでも常に活躍しているものだ。人はそれほど意識せず、かつそれがなければ見栄えしない。この星が生まれた時点で存在するもの。

 答えは背景だ。

 結果、自分の生き方はこの起想の時点で形成されたのだ。




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背景男の青春 人新 @denpa322

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