恋のプロセスにしてゴールとは?
生活がものすごいスピードで動き始める。
東京の大学の文学部への進学が決まった。
だけでなく、大阪の芸術大学へもちょくちょく顔を出すような生活になる。
『虚構がリアルを救うための実践』
わたしの主任教授にして文学部の管轄である『総合文化コンテンツ・ラボ』の統括責任者である柿田教授。
柿田教授と議論して決めたわたしの研究テーマが前述のもの。
ううん、研究じゃないよね。仕事の課題設定にしてわたし自身の在学中の考課基準。しかも学費免除どころかそちらの報酬までいただける。
「虚構、すなわち小説・音楽・漫画・アニメ・映画・演劇、あらゆるエンターテイメントを駆使して人間を救うんです。やる、と言った以上、やってもらいます」
わたしに厳命する柿田教授。
実は彼が一番の中二病かもしれない。
中二病実現のために共にリアルな戦いをする同志たちも燃えている。
「
「いやいやウチに」
「あの。3人で合宿しましょ?」
わたしの宿泊権を取り合う
「嶺紗さん、セッション用のスタジオ、ウチの高校使ってくださいね」
「おお。ウチの高校でも結構変態な楽器弾きいるからさ」
「でも、一番の変態はさきさんだと思う」
わたしの指摘にカナちゃんもセイジくんも同意してくれた。
で、東京の生活拠点は。
「父さんが東京に居てくれて助かったよ」
「こっちの方こそ嶺紗が一緒だと生活が潤って嬉しいよ」
父さんとアパートに同居してそれぞれ仕事と大学に通うことになった。
さて、わたしの地元はどうなるかというと・・・
「
「おかあさん。こちらこそよろしくお願いします」
なんと恵当はずっと有塚家から借りっぱなしの状態となった。強力な用心棒であり家事全般の助っ人であり母親の心のオアシスであり祖母と母親の潤滑油ともなってくれるだろう。
恵当さまさまだ。
そんな恵当にわたしは持ちかけてみた。
「恵当。期末試験は終わったんでしょ?」
「期末っていうか学年末ね。大丈夫。終わったし結果も万全」
「じゃあ気兼ねないね。では」
「? なに?」
「デートしよう、恵当」
「は、はい」
図書館デートや買い出しデートなんかじゃなく、デートそのものが主目的のデートというのをよく考えたらやってない。
なので、やってみた。
「恵当ー! 楽しー!」
「楽しく・・・ない」
ジェットコースターはダメなようだ。
「恵当ー! やっほー!」
「う・・・早く降りたい」
降りるというかちゃんと地上めがけて落下してるんだけどね。
フリーフォールもダメか。
「恵当ー! ぶうーん!」
「気持ち・・・悪い」
海賊船も×。
「恵当。何なら平気なの?」
「ジェットコースターがダメな時点で他のも無理だって分かるでしょ?」
なので観覧車に乗った。
「ああ・・・落ち着く」
「そう? なんかまどろっこしくない?」
「嶺紗って意外と
「意外と、じゃなくて見たまんまでしょ?」
確かに、と呟きながら恵当は地上を見下ろしてる。高所恐怖症、ってわけじゃなさそうだ。
「ねえ、恵当」
「なに?」
「背、伸びたね」
「ああ。入学してから7cm伸びたよ」
「わあ。男の子!それでもって、今日、誕生日だよね?」
「え? 隠してたのに・・・どうして?」
「恵当のお母さんに訊いたら教えてくれたよ」
「母さんめー」
「ということで、はい、これ」
わたしはきわめて合理的な人間だ。
図書カード。
「これじゃ親戚の叔母さんのお祝いだよ」
「こら。18歳の女子に向かって叔母さんはなかろう。恵当。13歳、おめでとう」
「ありがとう」
「どう? 6歳差が5歳差に縮まった気分は」
「4月にはまた6歳差に広まるじゃない」
「そうだよ。恵当とわたしの人間としての差は永遠に埋まらないのよ」
「人間としての差、か・・・」
恵当は背が伸びて見上げる角度が緩やかになったお陰か、目の力が更に増したような気がする。
そして、大人のような、でも思春期の男の子のような切実さを持った言葉を紡いでくれた。
「ねえ。嶺紗」
「はい」
目の真剣さに思わずわたしも言葉が畏る。
「ほんとに結婚、してくれる?」
「・・・はい」
「約束、できる?」
「もちろん」
彼はさっきと同じ言葉をもう一度言った。
「・・・ありがとう」
「・・・どういたしまして」
観覧車の途中から急に日が翳ってきた。
降りた時はもう夕陽に目を射られていた。
「ねえ、恵当。わたし幸せだよ」
「どうして」
「だって、こうやって彼氏とのデートが終わっても、また同じ家に帰れるんだよ? 2人揃って」
「・・・4月からはそうじゃない」
「恵当。わたし毎日LINEするよ」
「うん」
「1時間に3回ずつぐらい」
「それは迷惑」
遊園地から電車に乗って地元の駅で降りて。
駅から手を繋いで2人で帰る。
仲良し姉弟とか見られたって別に平気。
だって、そのうち夫婦になるんだから。
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