ひとつ屋根の下にしてすなわち夫婦!?

 早速投稿するしかないでしょー。


『彼とわたしの甘い共同生活が始まった。いいや、共同生活なんて曖昧な言い方はしない。彼とわたしは結婚生活(?)を始めたのだ!』


 PVが伸びに伸びる。

 やっぱりこういうお約束のイベントはハズレがない。

 でも、まさか作者が実際にやっているとはつゆ思わないだろうなー。


 そう思っていると、このエピソードに1件の応援コメントが入った。


『@mikito♡:真に迫ってます〜。さてはホントに同棲始めたんですね〜? 羨ましいです〜(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)』


「え。@mikito♡ って・・・もしかして三木井戸美樹都さん!?」


 ご本人で間違いないようだ。

 まさか今をときめく私小説の女王からわたしの投稿に応援コメントをいただくなんて・・・ああ、ミーティング、行ってよかった!


嶺紗れいさー。目玉? ランブル?」

惠当けいとー。変な略し方しないで。スクランブル・エッグにして」

「はーい」


 結局用心棒というだけでなく、当たり前のように惠当をこき使ってしまっている。でも、いい練習だよね?


「ふむう。恵当はなかなかスジがいいよ」

「家でも結構料理してるからね」

「でも我が家はもっと厳しいからね!」

「我が家というか、嶺紗がでしょ?」


 母親は朝早くに祖母の病院に出かけるし、父親も一昨日東京に行ってしまっている。


 恵当とふたりきり。

 そして、キッチンでお揃いのピヨちゃんのエプロンをつけて、朝の支度をする。


 うーん。絵に描いたみたい。

 いや、まるで小説みたい。現にわたしはこのリアルなやりとりをアレンジしながら毎日の投稿を続けた結果、面白いようにPVが伸び、レビューもポコポコ書いていただけてる。


 そして定期的に沙里ささとさんとさきさんから送られてくるプロモーション用のアニメ動画がわたしの宣伝ツイートの強力な武器となっている。


 さらにわたしは現役女子高生であるという属性を十二分に利用する。


『現在高3! どうぞお読みくださいませっ♡』


 彼氏が実在することはもしかしたら男子ファン(?)にはマイナスになるかもしれないので、三木井戸さんのコメント以外は晒さないことにした。


 そして恵当が部活終わりにわたしと図書館で合流し、ふたりでジムノペディを聴いた後、夕飯の買い物なんかを一緒にしてから帰宅。


 同じ家にだよ? まったくもう!


 母親が病院から戻るのは結構遅くなるので、それまで夕飯を2人で仲良くいただいて、後片付けして。


 わたしは受験勉強をやった後、時間を決めて小説を書き。


 恵当は読書と宿題の残ったやつをやり。


 それからお風呂ですよ、お・風・呂!


「居候だから僕が後でいいよ」

「恵当のエッチ!」

「なんで!?」

「浴槽のわたしのエキスをどうにかするつもりでしょ?」

「はい? そんなこと思いもよらなかったよ!? 嶺紗こそどういう妄想力なの!?」

「あと、髪の毛とか探したり」

「え? あ・・・そ、そっか」


 ん? 惠当。突然トーンダウンしたな。


 あ!


 髪の毛じゃなくて、もしかして・・・の毛を想像したのかも・・・


 とにかくもこういうのもじゃれあいだよね。

 お風呂に入った後はわたしの電子ピアノをスタンドに乗っけてソファに2人して座って。


 連弾するんだ。


「今日は、何弾く?」

「うーん。月光、かな」


 恵当のリクエストに応えてレッスンも兼ねてさ。

 それに明日の放課後はピアノ教室のレッスンの日だから、一応先生として指ならしもしとかないとね。


 恵当の髪、シャンプーの匂いがする。

 短く、清潔にカットされた惠当の髪。


 ふたりともパジャマ用のTシャツとショートパンツに着替えてるから、リラックスしてるはずなんだけど・・・この格好だと、余計に緊張するよね。


 ときめいてるんだ、恵当に。


 恵当はどうなのかな。


「ねえ、恵当」

「え。なに?」

「やっぱりやめとく」


 以前、恵当の唇にキスしようとして2人の仲が気まずくなった時のこと思い出した。


 そうだね。


 今は、ただただ清く行こう。


「ねえ、恵当」

「なに」

「大好きだよ」

「!!!」

「恵当は? 言ってくれないの?」

「ぼ」

「ぼ?」

「僕も、大好き、だよ・・・」

「ありがと♡」


 ああ。

 幸せだなあ。


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