露顕にしてつまりバレた
わたしたち2人が彼氏と彼女であることが、父親にバレた。
竹島くんにはひたすら申し訳ないことをした。高校の学食で中1の
「キミは中学生の本分を果たしているんですか?」
多分、恵当としては
『中学生どころか、人間としての本分を十二分に果たしてるよ!』
とわたしが代わりに答えたかったけれども、逆効果だろうと思いとどまった。本音を言うと、父親のために会社に乗り込んで総務課長に一矢報いてきたことをこの場でぶちまけたかった。
恵当はただ、謝った。
「すみません。そう言い切る自信はありません。ただ、嶺紗さんをいい加減に扱ったことはありません」
「キミはもう大人のつもりなんですか」
そうだよ! 元服した、『武士』だよ!
わたしの腹の
「嶺紗。嶺紗も受験生だ。もし2人が交際を続けるつもりならばピアノのレッスンもばあちゃんに代わってもらうしかない」
「小説を」
「なんだ」
「小説を、書いてるんだ」
ああ。
どうしてだか、わたしはこれを言った。
ただただ父親に誠意を示そうと思った。そのためにはわたし自身のことを、正直に吐露しなくてはならないと感じた。
恵当のことも
「どういうことだ?」
「WEB小説投稿サイトのコンテストに応募してる。恋愛小説なの。恋愛経験のないわたしじゃ書けないから、恵当に頼んで彼氏になってもらって、それで恋愛の感覚を掴んで、書いてる」
「お父さん」
「わたしは
「ま、町東さん・・・」
さすがの恵当も『彼女』の父親に悪い印象を持たれたくないようだ。『誰がお前の父さんだ』という意味の言い換えにあっさりと屈した。
「町東さん。僕は嶺紗・・・さんを決してやましい対象として接しているわけではありません」
「じゃあ、どういう風にですか。まさか嶺紗と『男友達』みたいに付き合ってるわけじゃあないでしょう」
「僕は、嶺紗さんが、本当に好きなんです」
周囲が、一瞬だけ、ざわっ、と蠢く空気があった。
ここは高校の学食だ。
そして、恵当の同級生であろう、中学校の女子たちもいる。
苦笑とも冷笑とも失笑ともとれるような、微妙な笑みに空間が包まれた。
でも、恵当はもはや止まれない。
「決していい加減な感情じゃありません。僕は嶺紗さんと結婚したいと思っています」
笑っていた女子たちもそれを止め、何かおぞましいものでも見るような視線をわたしたちに、凸レンズの光を集めるように集中してきた。
ああ。
背中に、汗が出る。
噴き出してる。
「嶺紗、帰ろう」
「と、父さん!」
他に取れる行動はなかった。
ただ、立ち上がって大股の速歩きをする父親の背中を追った。
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