味おんちの学くん

明弓ヒロ(AKARI hiro)

第1話 まずいチャーハン

「う、うまい。何度食べてもここのチャーハンはうますぎる」

 眼の前で、幼なじみのまなぶ君が、美味しそうに大盛りのチャーハンを食べている。


「こんなにうまいチャーハンが、もうすぐ食べられなくなるなんて、残念すぎる! めぐみもそう思うだろ」

「全然」

私は眼の前の、チャーハンをもてあそぶように言った。


 この店は来週つぶれる。そりゃ、そうだ。全く客が入っていないのだから。


 口の中に含んだ瞬間、ねっとりと絡みつく、ぐちゃぐちゃの物体。

 一口食べるごとに、火が通らずに冷たかったり、焦げたりしている焼きムラ。

 全く味がしないかと思うと、強烈なしょっぱさが味を刺激する塩の塊。


 いったい、どうやって作ればこんなまずいチャーハンが作れるのか。うちのお母さんが作ったチャーハンの方がずっとおいしい。そう、うちのお母さんは、ものすごく料理がうまいのだ。


 パラパラと炒めるために、最初からご飯と卵を混ぜる方法や、卵とご飯を別々に炒める方法などを、実際に作ってみて比べたり、炒める油の種類を変えてみたりと、おいしく作れるように、日々研究を欠かさない。

 普通の主婦が作ったとは思えないほどの出来栄えで、私は、有名な中華料理店のチャーハンよりも、おいしいと思っている。


 それなのに、このバカは。


「恵のお母さんのチャーハンもうまいけど、やっぱり、ここの店と比べると、かなわないよな。街なかの中華料理店とはいえ、さすがはプロだ」


 私の中に殺意が芽生えた。

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