第2話


「お前が呼び止めてくれなかったら、俺の方から呼び出そうと思ってたし?」


「えっ、そうなんですか」


 なんですか、と言った僕に、先輩は「俺、遠くの大学に行くからさ」と微笑む。


「そうですか……。寂しくなります」


「判んないけど。そのまま俺、こっちには戻って来る気ないから。最後に言っとこうかな、と思って」


「え……。それって――」




 ――もう2度と、会えないってこと?




 自分が、なんだか泣きそうになっているのが判る。


 目の前には、姉さんの姿がチラチラと浮かんでいた。




 僕の様子に困ったような笑みを浮かべた先輩は、「そう言や」と顔を横に向ける。


「この前、浩次を駅前で見たよ。大人の男と一緒だった。――優しそうなヒト」


「あ…………」




 ――裕文さんだ。


 この前の帰り、2人で駅前に寄ったから。




「あの人は……」


 義兄だと説明しようとした僕に、先輩は困った表情のまま、顔を戻す。


 そうして「彼が」と言った。


「彼が、以前お前が言ってた『姉さんの旦那』さん?」


「そうです。僕を本当の弟のように思ってるって、言ってくれた人なんです」


「本当の弟?」


 嬉しさを含んで言った僕に、ハッと先輩が笑いを吐いた。

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