第7話

「いや。キミの声しか聞こえなかった。呼んだだろう? 裕文さんって。だから俺、振り返って……」


 二人でしばらく見つめ合って。


 裕文さんの腕に抱き留められたままなのを思い出して、慌てて離れた。


「そんな……僕。お義兄さんの事を裕文さんだなんて、呼んだり……」


「いいよ」


「…………え?」


「呼んでいいよ。裕文って」


「………………」


 赤面する僕に、「え? そこまで?」と裕文さんが笑う。


「これは、呼ぶ練習が必要かなぁ?」


 クスクス笑った裕文さんに背中を押されて、歩き出す。




 背を押してくれている手は一つではないと、確信していた。 




「あのね。……大好きですよ! 姉さんの次に!」


「……おや。これは奇遇だね。俺も大好きだよ。由美の次に」


 二人で目を向け合って、吹き出して笑う。




 そんな僕達を眺めながら、姉さんもきっと、笑っているんだろうな……。




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