第2話

「そろそろ僕も、バイトくらいしようかな……」


 ぽつりと呟けば、義兄がピタリと箸を止めた。


「えっ。ウチってそんなに家計大変だったの?」


 ああー俺そういうの無頓着だからなぁー、とこめかみを掻いている。


 ごめんね、と謝りかねない義兄に、慌てて首を横に振った。


「いえそんな……。充分入れてもらってます」


「なら。そんな事言わないでよ。来年は受験だから、勉強も忙しくなっちゃうし」


 ああでも忙しくなってもご飯は作ってほしいなぁー、と甘えたように言う義兄の姿に、思わず笑ってしまう。


「大丈夫。高三になっても、ご飯くらい作りますよ」




 僕が十歳の時に、両親が交通事故で亡くなった。


 それからは、八歳年上の姉が一人で僕を育ててくれた。




 そんな姉の結婚相手への条件は、「弟と同居してくれる人」で。学生の頃から付き合っていたカレは、その条件が負担だと、プロポーズまでしていたくせに姉から離れていった。


 優しくて、弟の僕が言うのもなんだけど、美人だった姉の前には、恋人候補者が跡を絶たなかった。


 それでも僕を「養ってもいい」と言ってくれる人は、全然現れなかった。


 そんな姉が、二年前にやっと結婚して。


 相手は、裕文さんみたいな随分なお人好しで。

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