ヤッホー職人

和田蘆薈

ヤッホー職人

 「やっほー!」


― ヤッホー ―


「おとうさん!やっほーって聞こえたよ!

ねぇ、誰がやっほーって言ってるの?」


「うーん、そうだねぇ。きっと山の神様が返事をしているんだよ。お前の声に。」


お父さん残念!実は神様ではなく、職人の仕業だったのです。


山の麓の森の中の1軒の小さな家。煙突が目印のその家に職人は暮らしています。

小さな体に手入れされた立派な長い髭。トンガリ帽子を被ったその姿は、まるでサンタクロースのよう。

人々は彼をこう呼びます。

「ヤッホー職人」と。



 ヤッホー職人の朝は早い。日の出とともに目を覚ますと、彼は家の近くのメープルの木へ向かいます。木に設置しておいたビンにはトロットロのメープルシロップが。

んん~、実に美味しそうだ。

おっと、ついよだれが。

えっ?シロップは何に使うかって?

それは後でのお楽しみ。


 職人は倒木を見つければ、家へ運んでトンカン、トンカン。

薪や椅子にします。


 しばらくするとコケコッコ~とニワトリが。朝食の合図です。パンケーキを焼いて、さっき採ったメープルシロップをかけ、コーヒーを入れたら完成。んん~、いい香り。


 朝食の後は発生練習。

「あ・い・う・え・え・い・あ・お」

いい山びこを届けるには欠かせません。


 しばらくすると...

「ヤッホー!」

さっそく聞こえてきました。

するとヤッホー職人は声のする方向へ向かって、

「ヤッホー!」

声は塊のように空気中で凝縮され、声のする方向へ飛んでいきます。そして山の途中で割れて声が聞こえます。


「あっ!ヤッホーって聞こえたよ!!」


しっかり届いたようです。まさに職人技


 え?そんなの誰にでもできるって?

実は彼は声が聞こえた瞬間、天気や風を見極めて、確実に聞こえる「ヤッホー」ができるのです。

たとえ雨の日でも雪の日でも、嵐の日でさえも職人は確実に届けます。

ヤッホーを。



 彼は今日もみんなに「ヤッホー」を届けます。

なぜそんなことをするのかって?

それは彼にしか分かりません。


 あなたも山に行ったらヤッホーと叫んでみてはいかがでしょうか。

もしかしたら「ヤッホー職人」が姿を見せるかも知れませんよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤッホー職人 和田蘆薈 @aloe-yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ