ゴブリン強襲
時間は遡り、灯音がギブネット達に連れ去られてから数十分経過した頃、優太達はリリに騎乗し、夜の街を疾走していた。
彼らはまず灯音の家に向かい、何処へ連れ去られたかの手掛かりを探す事にした。
灯音の家の前に到着した優太達は、連絡しておいたウェストンや彼の部下と合流し、迅速に手掛かりを探し始める。
ちなみに灯音の家族はギブネットの魔法で寝かされており、今はウェストンの部下が、気絶させられた護衛担当者共々看ていた。
灯音の手掛かりは、ウェストンの使い魔であるアースラによって比較的早く発見された。
アースラは情報収集能力に長けており、ギブネット達がその網に引っ掛かったのだ。
優太達は直ぐ様、灯音が連れ去られた湖の公園へと向かう。
「何だあれはっ!?」
その途中、山手の方で紫色の光柱が昇ったのを目撃し、思わず優太は叫んだ。
「あれは魔法じゃ!それも大規模な!」
疾走するリリに騎乗しているアリスは、風を切る音に負けじと同じく後ろに騎乗している優太に聞こえるよう叫び返し、自身も驚愕の表情を浮かべた。
「もしかしたら
「じゃあ、あそこに先輩がいるんじゃないか!?」
「いや、まずはウェストン殿が示した場所へ向かう!」
(私もアリス様の意見に賛同致します。ここからなら公園の方が近いですし、私の同胞達もその周辺で怪しい人物を目撃したと言っています。)
「同胞?」
(この地域に住んでいる犬達です。彼らの遠吠えは私のとっておきの情報網です。)
「なるほどな、了解、行き先は任せる!」
果たして、アリスの判断は正しかった。
ギリギリのタイミングで間に合った優太達は、鎧姿で灯音の前に立ち、彼女の無事を確認して一瞬だけ安堵した後、すぐに気持ちを切り替えて、迫りくるゴブリン達に向けて武器を構えた。
バーステットや罠により、ゴブリン達の数は多少減ったが、それでもまだ半数は健在であった。
「奴らとまともに打ち合ってはならぬ!攻撃は避けるか、いなして捌くのじゃ!」
アリスは優太に指示を出しながら、突如現れた彼らにゴブリン達が動揺している隙を突いて斬り込んでいく。
数で劣る今、
ならば先手必勝、今すべき事は少しでも相手の数を減らす事である。
(魔王崇拝教の幹部と斬り結んだユータ様なら大丈夫です。)
リリは灯音の護衛の為に傍を離れられない。
その代わり、優太の目の前にいるゴブリンを地面から突き出した氷柱で串刺しにし、魔法の援護と共に彼の背中を押した。
「っ!ありがとう、リリ!俺もいくぞ!」
優太も覚悟を決めて、ゴブリンの集団へ斬り込んでいった。
まずは氷柱で串刺しにされた同類を見て混乱しているゴブリンの無防備な頭を狙う。
ー グシュ! ー
刃物が肉を断ち斬る不快な感触に、兜の下の表情が歪む。
身体強化の
魔物とはいえ初めて生物に手をかけた事に感情が激しく揺さぶられるが、今は努めて心を殺して考えないようにし、優太は意識を次の目標に移し、多少ぎこちないが型の動きを忠実に守り2匹目を屠る。
その頃にはゴブリン達の動揺も薄れ、変わりに怒りを露にして襲い掛かってきた。
それでも優太のやる事は変わらず、敵の攻撃を避け、適切な型で以て斬り返して3匹目も絶命させる。
続く4匹目が錆びた短剣を振り上げて攻撃をしかけようとしたが、振り上げた際に生じた隙に盾を顔面にぶつけて怯ませ、剣を小さく鋭く振って、その喉笛を斬り裂いた。
この時点で、優太だけでも4匹倒し、リリを合わせると5匹に、アリスに至っては単身で7匹を討ち取っていた。
優太達の突然の出現によって混乱が生じたところを狙い突いたとはいえ、破格の成果であった。
以前にゴブリン達と戦った経験がある事も、今回の結果に繋がったと考えられる。
残り3匹となったゴブリンはさすがに分が悪いと踏んで、灯音の方を名残惜しそうに睨みながらもその場から逃亡を開始した。
もちろん優太達が見逃す理由はなく、追撃の為に一歩踏み出した。
だが、追撃は失敗に終わる。
突如として巨体の魔物が躍り出て、逃げたゴブリン達を次々と、手にした棍棒で鎧ごと叩き潰したのだ。
その正体は、大猪の毛皮を頭に被った身の丈2メートルを越す強力な化物。
オークであった。
「ガァアアアアアア!」
雄叫びを上げ、オークは優太達を威嚇する。
「やはり、出たか・・・」
優太はゴクリと唾を飲み込み喉をならす。
以前アリスはオークの事を魔王軍の小隊長といっていた。
ならばゴブリンが多く集まったこの場所にオークが現れても不思議ではない。
そのような嫌な予感が、ゴブリンの集団と対峙した時にしたが、それが見事に的中してしまったのだ。
(だったら、奴も出てくるに違いないな。)
むしろ、出てこない道理がない。
先日、辛うじて退かせる事ができた強敵であり、今回の作戦の目標、オルガ。
奴と再び戦う事になる。
ゴブリン達との戦いでは、運良く体力を節約できたが、眼前のオークとの戦いはそうはいかない。
また、勝利した後も辛い戦いが始まる事は必至。
心が折れそうになるが、アリスとリリ、そして、灯音を見た優太は、兜の中で唇を噛みしめ、己を奮い立たせる。
(情けない姿は見せられない。それに、みんながいる。きっと大丈夫。)
これ以上は待ちきれないとばかりに唸り声を上げたオークの突進を合図に、第2ラウンドが開始した。
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