5月2日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで阿部豊監督の「南海の花束」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで阿部豊監督の「南海の花束」を観る。


1942年(昭和17年) 東宝映画 106分 白黒 35mm


監督:阿部豊

脚本:八木隆一郎、阿部豊

撮影:小原譲治

美術:北猛夫、北辰雄

編集:後藤敏男

音楽:早坂文雄

特殊撮影:円谷英一

出演:大日方傳、河津清三郎、大川平八郎、真木順、月田一郎、杉村春子、清水将夫、田中春男、菅井一郎、佐山亮、龍崎一郎、


太平洋戦争が終わる三年前に作られたこの作品は、国策映画らしい色合いを先月から連続して上映している流れとして、一面的な正義と大義を感じる内容となっているが、登場人物に同情を寄せやすい内容となっている。


飛行機が登場しても軍人としてのパイロットではなく、民間航空会社の搭乗員として仕事への情熱を男達はぶつけていく。物語の構造は好意的な要素の組み合わせとなっており、南洋の飛行場に新しく赴任した所長の厳格な性格にやや生ぬるくなった作業員達がずれを感じ、そこに旧知の仲間が取り持ちつつ、互いの成長と融和を追っていく。そこに使命を持って困難を乗り越えていく意気が盛り込まれ、仲間の生還と遭難を事件として組み込み、赤道を一線として覇権を広げる日本の最前線の航空経路を開拓する展望の広さを見せる。戦局の悪化に伴う南洋諸島の凄絶な歴史を後に考えると、この作品も希望がそのまま絶望として反転されるイカロスのような落下をたどることになるのだが、慎重に真面目で正しく描かれる脚本と演出は、傑作ではないが、映画としての素直な形を示している。


実写と模造の二種類の飛行シーンの実感の甚だしい差異や、南国らしい型紙で背景を彩るスタジオ撮影と本物の椰子の木や海岸線など、優劣がわりとはっきりした内容のなかで、とってつけたような模様としての人物の動きをうしろに、造形の生き生きした人物が視線と対峙に味をみせるショットがいくつもある。目立って好みの役者ではないが、大日方傳さんが滅多なことでは動じない不屈の所長を頑固に演じていて、操縦士達も皆目鼻立ちが整っており、その中で搭乗席を譲って後悔する河津清三郎さんや、仲間達をまとめつつ南洋での20年間の仕事の最後を飾る大舞台で、そのまま遭難して帰らぬ人となる真木順さんなど、理路整然とした台詞に小気味良い冗談を含んだ快活な仲間同士の会話などが単純だが好ましく配置されていて、いくぶん扇状的な要素は強いが、役者と演技はとても良い質に仕上がっている。


占領地を広げていくに従って物資の輸送などライフラインの整備が必要となっていく。郵便輸送の正確さを述べるシーンを一端として、軍需物資だけでなく、南洋の島々に移り住む人々に必要な輸送経路として飛行場は大切な基地となり、そこを拠点に次へ広がる航路を結びつけていく。そこに戦争の功罪を結びつけるのは別にして、征服と入植という正義とも悪とも見ることのできる行為の中で、真面目に仕事に取り組む正義感を持った日本人の虚像と実像をこの映画から知ることができる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る