4月14日(水) 広島市中区中町にある醸し料理店「醸 はせべ」の「てんぷら×生熟成」に参加する。
広島市中区中町にある醸し料理店「醸 はせべ」の「てんぷら×生熟成」に参加する。
最近は自然な肉体要求によりメリハリのある生活を心がけていて、飲む日は飲み、疲れのたまる気配があると一日飲まずに過ごしている。昨日一昨日と飲まずにいたあとに、うまく予定の隙間にはまって「醸 はせべ」さんの「てんぷら×生熟成」に参加することができた。「朝メシ はせべ」を訪れてから一ヶ月以上経過しており、夜の料理はずいぶんと口にしていなかったので、とても喜ばしいイベントだ。
持っていた期待を軽く凌駕するイベントとなっていて、植木禎裕さんが揃えてくれた年を経た生酒に、減られたのか、それとも張られたのかわからないが、それほど飲んだような気はしないのに早くから酔いが全身に回り、大将から次々揚げられるてんぷらに旬と油の火力を浴びることになった。
まず常温で鶴齢、宗玄を口にし、大七、それから秋鹿を口にして、悦凱陣で一段落して燗に入る。十年以上保存された古酒といってもそれぞれ性格が異なり、「そらや」さんにある島根の酒や広島の色のついた酒のようなミネラル感はあるのだが、角が取れていて、口当たりからきりっと風味があがって綺麗に推移するのもあれば、男気のある風味に威勢の良さを感じたり、酸味がふわっと広がってまろやかさが消えずに残ったり、いくぶん漬け物のような古めかしい味わいを持っていたり、日本家屋の囲炉裏の雰囲気を持った余裕のたたずみなどもあり、酔えば酔うほど味は変容するようで、一口では味到させない洗練された奥深さに酔いしれると、これほどの酒を用意してくれた植木さんの特異なコレクションと振る舞いに感謝するばかりだった。
それらの酒はもちろんてんぷらとの相性が良く、こごみの爽やかさとぬめりに驚くべき柑橘の白いタレの巻かれた大将のてんぷら料理が始まると、のびる、たかのつめ、よもぎがさくさくの分厚い衣に包まれて登場し、口一杯に噛むとぱりっと崩れて苦みの閉じこめられた旨味と緑が口内に放散する。そして決定的な違いを生んでいるのが発酵させたというグリーンのタレで、これこそ「醸 はせべ」でしか味わえない明白な旨さだ。次に登場したタケノコは魚介類に匹敵する肉質があり、特別な風味も良いが何度も噛める繊維はまるでシタールのような共鳴弦の響きの良さを持ち、塩と木の芽が強く味を添える。これだけでも相当な値打ちだが、鯛がこれまたよい味を保持していて、魚卵のような風味も感じるがまるで判別つかない濃厚なタレがフェンネルと合わさってのっており、肉厚の身と一緒に簡単に飲み込ませない味の膨らみがあった。
ジョニー卵の白身の柔らかいこと、黄身も溢れて純朴な優しさが詰まっている。それからヒゲの伸びた辛み野菜で口がさっぱりされると、大名らしい風格の太刀魚がやってくる。箸でつかむとほどけそうな柔らかさで、口に運ぶと白身が喜んで飛び散るようだった。さらに立体よりも音として潮の風味をもった姫貝が運ばれ、極めつけの甘鯛を思い切りかみ砕くと、歯肉に突き刺さる喜ばしさだ。
飛切りの酒と料理による大盤振る舞いな贅沢となった「てんぷら×生熟成」の凄さについ甘えてしまい、泡立ちをもった分厚いタンニンのイタリアワインと、淡い色の酸味と味わいが日本らしい薄塗りのワインも飲み、さらに二種類の仙丹じみた日本酒を飲む頃には、不作法しかできなかった。
古酒がメリ、てんぷらがハリ、そんな意味を持たない安易な例えをしたくなるほど存在を持った合わせがあり、不躾は長々と腰をつけてしまった。「醸 はせべ」さんの居心地の良さは格別で、今回も頭が下がるほかないほどお世話になった。
参加する他の人も楽しそうで、葬り去りたい流行り言葉にお別れするなら何を選ぶ、という大将のお題も和を結び、愉快なナウさで、ヤバい時間にタピオカだった。おかげで、同伴者は本通の信号待ちで音もなく転倒し、空鞘公園近くの壁に激突して直立のままフリーズする危なっかしい帰り道となった。自分の選んだ言葉を使えば、一歩間違えてこの世からアバヨしそうなほど浮かれた植木さんの酒と大将のてんぷらで、本当に、ごちそうさまでしたの宵だった。
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