4月10日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「Beethoven Fest Hiroshima 2021 第2回公演」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「Beethoven Fest Hiroshima 2021 第2回公演」を聴く。


演奏:モック 555Plus

オーボエ:板谷由起子

クラリネット:品川秀世

ファゴット:徳久英樹

ホルン:渡部奈津子

ピアノ:小林知世


ベートーヴェン:ピアノと管楽器のための五重奏曲変ホ長調 作品16


演奏:アンサンブル響+広島室内楽協会

1stヴァイオリン:佐久間聡一

2ndヴァイオリン:山根啓太郎

ヴィオラ:増田喜代

チェロ:熊澤雅樹


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 作品127


夜公演の「Beethoven Fest Hiroshima 2021 第2回公演」を聴いた。


一日に二度演奏会に行くことはそうそうないので疲れるものかと思いきや、耳は慣れて音楽にすっと入れるらしく、演劇や映画と違って力みなく楽しめた。


広響ですっかりおなじみと言ったらおかしいが、管楽器の面々方々の室内楽を聴くのはあまり経験がなく、フルートは聴いたことがあっても他の楽器はなかった。


モック 555Plusの演奏は、作品番号の若さのとおり溌剌たる意気に溢れた音楽だった。前列の席に座ったのは一瞬間違いかと思ったが、すぐに各管楽器の音色に慣れて、普段は遠く聴くことが多いからこそ身近な音の輪郭が新鮮だった。まるでやんちゃな子供のように小林さんのピアノは自由に走りまわり、広響を聴き始めた頃から印象深い音色で何度も場内に特別な情景を生み出している板谷さんのオーボエが奏でられ、これまた落ち着いた品川さんのクラリネットの明瞭な音の粒が紳士然としていて、オーケストラでは聴けない音の色がはっきりしていた。渡部さんのホルンは見守るように音を鳴らしつつも、素早いパッセージで歌われると快活な音の響きに展望が明るくなるようで、徳久さんのファゴットも他の楽器に重ならずに歌われると、ベートーヴェンらしい響きの中に存在がはっきり表れて、クラシック音楽を聴き始めの時に交響曲の中でこの楽器に山と牧草地を見たことを思い出した。


最近オーストリアを旅行していた時の写真を整理しているので、この曲の古典的な音の美しさにまざまざと緑豊かな自然を感じられた。管楽器の持つ特性とはいえ、独立心を持った楽器はより呼吸を感じやすく、協奏曲のように流れる音が躍動的なピアノとの距離感は弦と異なり、盛り上がって一体となる和音の響きは経験のない色となっていた。音楽の健全な心が楽しく音に表れていて、難しいことなく浸れる演奏となっていた。


後半はアンサンブル響+広島室内楽協会の演奏で、複雑な構成は同じ人間が生み出したとは思えないほど発展していた。第一ヴァイオリンの佐久間さんの音はビブラートの抑制がはっきりしていて、揺れない弦のストレートなボーイングの響きを多く聴いた。第一楽章はどことなく固く、第二ヴァイオリンとヴィオラの響きが若干弱く感じられたが、第二楽章になるとアンサンブルはゆっくり呼吸を整えるように音が重ねられ、アダージョは次第に盛り上がってそれぞれの音が調和していくようだった。第三楽章になると一体感は増し、広響の舞台上でそのまま見るヴァイオリンの二人の位置関係がより緊密になるようで、山根さんの表情一杯に表れた弾きっぷりも柔らかな音に伝わり、増田さんは控えめで丁寧な音で支え、熊澤さんは平然と慣れ親しんだ室内楽のチェロを鳴らしていた。第四楽章になるとパッションがより表れ、男らしい渋さで落ち着いた印象のある佐久間さんも派手にならない歌いっぷりで弦を高らかに響かせ、コンマスらしい統率感で立ちながら牽引していた。


そんなわけで夜の「Beethoven Fest Hiroshima 2021 第2回公演」も味わい深く、埋没までにはならないが、オーケストラの大人数に個の色は薄れてしまうことなく、性格を持った楽器の響きを直に楽しめる室内楽となっていた。曲や表現よりも演奏家の人としての音色が第一にあることが楽しめる演奏会となっていて、こういう経験があると、また広響でオーケストラを聴くときに、ちょっとした想像は膨らみ、もしかしたら音の経験が一致することもあるのだろう。


オーケストラは木と森の関係といえばありきたりだろうが、「Beethoven Fest Hiroshima 2021」は普段はなかなか味わえない木の個として、団員の素顔を知れるとても面白い室内楽なのだ。

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