4月10日(土) 広島市中区本通にあるパブアンドバー「PUB and BAR PIC」で飲む。

広島市中区本通にあるパブアンドバー「PUB and BAR PIC」で飲む。


夜にすこし時間があったので「PUB and BAR PIC」さんに寄った。


最近は興味のある酒が増えたので、ついつい目移りしてしまう。手当たり次第に動くのが性質で、何か一つ専門になるということができない。器用貧乏という言葉ぴったりで、ボーダーを越える稀な性格ともいえるが、とにかく分散が常だ。


「PUB and BAR PIC」さんはたくさんボトルを揃えているから迷ってしまいそうになるが、基本に戻ってメスカルを注文する。シエテ・ミステリオスというラベルのスケルトンが愛らしい酒は、まさにメスカルだ。決して弱くないアガベのフレーバーが第一にあり、蒸留酒よりもスピリットという言葉が似合う澄み切った味わいで、とても純粋な味だ。野生的とも言いそうになるが、素材そのものがまっすぐ純化された風味の強さだ。単純の良さがある。


しかし単純は笑いにもたやすく転化される。マスターにメスカルの製造工程の動画を見せてもらうと、機械化よりも人力の働きに好みは引っ張られる。ついつい日本を基準に考えてしまうが、海外に行けばこのような人の手が機械に勝る風景はいくらでもある。とはいえ、シュルレアリスムのようなアガベの大きさは吹き出してしまう。それも巨大な鉈でカットするのだから、その小さな破壊的な力動は気が抜けてしまう。すこしケバブに似ていて、ある種残酷な皮はぎにも見える。青竜刀という名称はこの刃物こそ似合うだろう。ほんと、竜の卵のような巨大なアガベだ。気が抜ける。


あれを殺して、蒸して酒にするのだから、メスカルはたまらない。テキーラジャーナルには兄弟とも姉妹とも、似た原料だが性格の違うそれぞれの酒が説明されていたので、飲み比べとしてギラ・テキーラを注文する。樽の熟成は1年未満らしく、メスカルとは異なるアガベのフレーバーを持ちつつ、樽の持つ香木らしい風味もあり、からっとした味になっている。少し色気はあるが男の香りで、メスカルのような裸一貫の風体とは異なる。


刺激がないと人生はつまらない。蒸留酒は刺激のアンサンブルに、独奏のような新鮮や熟成の性格もある。もうすこし飲みたかったので、黒いジンのスケープグレースを飲むと、複雑なフレーバーが渦巻いている。インドカレーのようなスパイスの混合と統一のある味だ。


目移りしたり着目したり、生きる幅は広くも狭くもあるから、悩んで考えて適当に選ぶのが一番なのだ。今日はこれ、太郎が生まれそうなアガベの一杯。そんな気分で一生を過ごしたいと思える「PUB and BAR PIC」さんの蒸留酒と選択に、今日も感謝だ。

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