4月7日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで豊田四郎監督の「若い人」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで豊田四郎監督の「若い人」を観る。


1937年(昭和12年) 東京発声 81分 白黒 35mm


監督:豊田四郎

原作:石坂洋次郎

脚色:八田尚之

撮影:小倉金弥

美術:河野鷹思

音楽:久保田公平

出演:大日方傅、市川春代、英百合子、夏川静江、山口勇、伊藤智子、林千歳、押本映二、鹿島俊策、松林清、稲田勝久


映像文化ライブラリーはデジタルメディアでの上映だと入場料が少し安く、16mmも同様だ。先週まではスタンプを集めるのに適した料金払いだったが、今週は35mmとなって大きな銀色のワンコインと銅色が一枚必要となる値段になっていた。フィルムのサイズが変わってたしかに画面はより立体感を持ちはしたものの、今日の作品は音声が一定していなかった。普段ならそれほど気になりはしないが、音節がとらえにくいのに加えて、音量は大きくなったり小さくなったり抜け落ちていたりと、物語の理解としての手がかりが欠けるだけでなく、見せ場で肝心な言葉がいなくなる悲しい現象が存在してしまった。


無声映画としての演出よりも登場人物達の感情と変化に迫る内容となっており、動作で笑わせるよりも台詞を念頭に置いた演劇で物語が作られているので、個人意識の目覚めから自意識の立脚だけでなく、女性立場の擁護など盛んに論じられるような思想が重きとなる時代らしく、文学的で堅苦しい台詞に作品のエッセンスが含まれているので、それらを捕まえられないと登場人物の動きの意味が薄れてしまう。


とはいえ、函館という地名の出る北国の女人制キリスト教学校が舞台となっているだけで、この作品は見所がある。今も変わらない女学生の溌剌とした集団の陽気を観るだけでも気分が良くなり、35mmとはいえ古い作品らしく明暗が濃くぼやけるようなシーンもあるので、鮮明に映らないからこそ肌は白く綺麗に見えて、制服姿の女学生達は修道女らしい清潔な風合いを小鳥の元気と持ち合わせている。


つい自分が通っていた学校と比べてしまったが、長方形よりも正方形に近い黒板が大きくあるように教室の天井は低くなく、サイドではなく教卓の背面にある壁に縦長の格子枠を持った窓があるところなどは、宗教学校らしい贅沢なお嬢様暮らしとしての学校生活がある。清廉な演技でとても美しい首の角度やうつむきを見せていた夏川静江さんの衣装も美しく、細身の黒いアフタヌーンドレスは厳粛に肩は張っているが、高いウエストの腰ベルトから長い裾に流れるラインがとても上品なシルエットとなっており、それに古い写真で見たマレーネ・ディートリッヒさんのようなウェーブのかかる長くないヘアスタイルは、このうえなく凛然と仕上がっている。実際1930年代の映画作品を今月観ていて女性の髪型がとても好ましく、当時も今も流行りが女性の髪の毛を胞子でいたるところに発生させるように形作るのは似ているのだろうが、もみあげあたりから細い髪を垂らすような女神らしい柔らかさや、後ろ髪をカールさせる若々しさはもはや見慣れてしまい、クローシュ帽が似合うような気品のある頭髪も再び登場しないかと思ってしまう。


ついそんなことを考えてしまうように、男性教員も登場するが女性の性格こそ主軸となっているこの映画は、安っぽくいえば三角関係を描いている。ただし市川春代さん演じる女学生の人物造形がうまい具合にややこしく、先生に恋しているのが目に見えるものの当然そんなことは口にせず、泣いては甘え、駄々をこねる。そこに修道女らしい女性教員が加わり、女の心に倫理観も混じり、繊細な感情の変化が描かれ、時には横への移動撮影に室内の物が通過されて演技が続けられたりと、劇的な展開の男女の立ち位置がよく、また壁にもたれかかるポーズなどがとても恋しく伝わってくる。


音声がもっと聴けたらよかったのに。そこがすこし残念だとしても、今の映画では決して扱われない続きがあるような幕切れも叙情感が残り、編集や展開も含めてとても流れるような美しさを感じる作品で、個人的にはとても好ましかった。

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