3月6日(土) 広島市中区幟町にあるフランス料理店「tam-soup」でプリフィクスコースを食べる。

広島市中区幟町にあるフランス料理店「tam-soup」でプリフィクスコースを食べる。


休日の幟町界隈の店は混んでいて、よく弾かれる印象があるので最近は足を運んでいなかった。ついこのあいだエスプレッソマシーンの配置が話になり、それを機にまだ訪れたことのない店に行ってみると、満員によりクローズしていた。


途中に「tam-soup」さんの前を通り、プティオードブルプレートを口にして以来美味しい店とインプットされていたが、何度も来ては席が一杯で数年間入れていなかった。窓の向こうをのぞくとお客さんはいないらしく、試しに入って予約を確認すると、なんと座ることができた。


どんな人気店も隙間の日があるのだろう。そんなたまたまに喜び、今度はメインもあるプリフィクスコースを注文する。


前回も清涼な前菜を味わったことが思い出されるように、ピュレとジュレの作りに清々しさを感じる。花屋や服飾店だけでなく、間違いなく春は飲食店にも来ている。トマトは春の野菜ではないが酸味を含んだゼリーと一緒になると装いは涼しくなる。ソラマメ、インゲンは溌剌とした緑の味がしゃんとしていて、タケノコも香り高く仕上がっている。あらためて思ったのは日本食のような素材を澄ませた調理となっていて、ブロッコリーやアスパラガスなどどれも冷酒に合いそうだが、アサリやホタルイカはさらに深い酒も呼び込む味となっている。キッシュもバターより小麦の豊かさがあり、どれも強い味とはなっていない。


とはいえ新タマネギのスープは生クリームで丸く凝縮されており、口当たりのタマネギの爽やかな風味と甘さがとても優しく、バゲットを口にして一緒に噛むと薄くない味わいとして腹におちてくる。


メインはスズキの白ワイン蒸しで、これも日本食と思えるあっさりした味付けとなっている。それぞれの野菜のアクは抜かれているが風味の残る手のかけようで、スズキは脂っ気よりも淡泊ながら潮を連想させる身の膨らみとなり、舌触りはなめらかで口どけがよい。そしてソースはむしろスープで、日本料理の出汁とは異なるが同じ精髄としてフュメ・ド・ポワソンになるのだろうか。非常に澄んで深みがあり、これが本当に美味しかった。


デザートは小さなマドレーヌに、外側クランチで中はやや重みがあるからカカオの香りと糖の甘さを少しずつ溶かしていくガナッシュと、茶がたっぷりと蜜のあっさりした抹茶のプディング、そしてリンゴのコンポートの食感がさくさくして、酸味こそイチゴの持ち味だと光らせるジュレとの合わせ方だ。


濃いお酒よりも、口当たりのきりっとしたものが合いそうだと食事中に考えるほど日本食のようなみずみずしさに溢れた料理で、ジュレも煮こごりも同じ調理だと計算式をはめるように、日本酒もワインも同様に飲める美味しい料理なのだと納得するランチタイムになった。

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