2月28日(日) 広島市中区中島町にあるインドカレー店「Indian Dining & Bar PEACOCK」でロイヤルセットを食べる。

広島市中区中島町にあるインドカレー店「Indian Dining & Bar PEACOCK」でロイヤルセットを食べる。


アステールプラザで能楽を観る予定があったので、ちかくにある「Indian Dining & Bar PEACOCK」さんにやってきた。


ここは初めてになるので、二階のお店におそるおそる入ると、男が二人立っている。どうやら店の人ではなく、一人は知り合いらしきインド人で、もう一人はピンクのパンダだ。


遅れて水を運んできたスタッフさんにロイヤルセットのダルカレーとサグパニールを注文する。店内飲食の客は他にいないのに、一人だけのインド人かネパール人スタッフさんは忙しく働いている。フードデリバリーサービスが普及した今は、このようなゴースト繁盛らしい不思議な光景を飲食店で観ることになった。


すると薄青い電気のおじさんもやってきて、その人も待つことになる。注文してから遅れること30分、ようやくセットが運ばれると、サグパニールの色ではなく、どちらも赤みがかった茶色のカレーとなっている。


口にして、メニュー表を見て確かめると、どうもチーズカレーのようだ。するとそんな自分にスタッフさんは「どう、なんかおかしい」と言うので、「これサグパニールじゃないですよ」、「それ、スパイシーカレーだよ」、「いや、これ、パニールですよ」、「そう、あなた、スパイシーカレーを注文したでしょ」と互いの主張を述べ続けて相手の言うことを聞かない問答が続くと、どうやら伝票に証拠が残っていたらしく、サグパニールを作り直そうとするので、「いいですよいいですよ、これで」と言って落着する。


最初は何も言わずに食べようと思っていたのだが、つい訊かれたので答えてしまい、このような言い合いになった。もっちり甘いナンと中辛がマイルドな両方のカレーも良いのだが、日本人ではこうもならない間違いに対しての姿勢がとても味があった。


昔インドを二ヶ月旅行していた時に、ケチな生活をしていたせいで何度もインド人と口論になった。それらの記憶でたしかなのは、彼らは遠慮なくぶつかってくることだ。自分の非をたやすく認めない、まず相手の間違いを指摘する。その姿勢は簡単に相手にも伝染するので、自分も負けじと応酬する。それがとてもすがすがしく、一時とても腹立たしいのだが、あとあと自分の中で笑い話として落ち着く。


ただ今日のランチではそれほどの悶着はなく、むしろ作り直そうとする誠意をみせていて、インド人は謝る言葉を持たないと小耳にしたことはあるのだが、スタッフさんは会計の時に申し訳なさそうに「ごめんなさい」と口にした。別に気にしてないのに、結局出てきた料理が美味しければいいのだ。


そんな人と人とのコミュニケーションを考えたランチの時間には、これから能楽を観に行くであろう美しい着物の女性が一人窓際にやってきて、光を背景に小顔とくるっとした睫毛に聡明そうな額がことに麗しく、一人カレーを食べる風景がなんとも言えない乙な眼福となっていた。


着物にカレー、そして緑の抜けたパニールに互いの主張を指摘する客と店主、テレビは広テレのチャンネルが流れていて、なんだかとても良いランチタイムだった。

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