2月20日(土) 広島市中区上幟町にある広島県立美術館で「第67回 日本伝統工芸展」を観る。

広島市中区上幟町にある広島県立美術館で「第67回 日本伝統工芸展」を観る。


今年も「日本伝統工芸展」を観に行った。といっても昨年初めて訪れて以来の二回目になるが。


前回からどれくらい目が肥えたか確かめるつもりはなかったが、今日観に来て思ったのは、どの部門に対しても新たな視点が自分に備わったことだ。おそらく、昨年感じた事をただ忘れてしまっただけではない違った感受性が身についたようで、楽しみにしていた木竹工や人形だけでなく、今回は染織の生地の持つ質感や、漆芸の細微な表情と質感の表現がより存在感を持って目に迫ってきたように感じた。年に一度の文楽広島公演の鑑賞で芸の味わいが毎年増していくように、「日本伝統工芸展」は手仕事が持つ多様な表現を教えてくれるだけでなく、さらに細かい要素に対しての感覚も鍛えてくれる。


陶芸は普段からぐい呑みを使用しており、どこか店へ食べに行けば必ず触ることになるので接する機会が多く、最も馴染みのある部門だが、やはり普段使いとは異なる造形の説得力は別物だ。上野の美術館で初めて陶芸展を観たときは、それなりに各作品の表現を感じられたが、今では作品の持つ繊細な線や厚みがより伝わってきて、具象や象徴だけでない表現として、質感や全体の感じを含めた物の性格が見えるように思えた。展示されている作品数は少なくないので、一つ一つ言及はできないが、当然細かく感想を言えるだけの質がどれにもあり、観るべき量が多いので、色、肌合い、主張などなど、言葉を並べればよりわからなくなるほど作品の個性は複雑になっている。


陶芸に比べると他の部門の作品数は減るが、一品一品の持つ表現の豊かさと深さはもちろん変わらない質にある。今回も着物は見応えがあり、友禅の持つ端正な生地の存在感にスケールの大きな絵柄もよかったが、木綿の持つ柔らかさや、沖縄の作家による薄く透ける質感とプリミティブに向かうパターンなど、着物としてただ異なるだけでなく、その味わいの違いを感覚として感じることができた。


普段見慣れないのもあるだろうが、今回の展示で自分の趣味に適するのは漆芸で、繊細な線とぼかしによる奥行き深く、端然としながら優美な気品があり、蒔絵や彫漆などもいいが、やはり自分は螺鈿に心を奪われる。今回も夜行貝だけでなく、東南アジアの玉虫の羽が細工された作品もあり、細かい技法と材料選びをもう一歩知ることになった。


ゴミ屋で金属を扱っていた経験もあるからだろう、金工もとても惹かれる部門となり、自分の知っている黄銅とは異なる肌合いの作品もあれば、前回同様に金属が陶磁器のような壷のフォルムを持ち、鉱石のような模様を浮かべている作品もあり、素材の持つ性質を保ちつつ、いかに自由に具象を得ているか観るのも非常に面白いところだ。


そして最後にやはり、花籠を観て目の保養をする。軽やかな木の流れは細工に富み、建築らしい構築ながらも、柔らかいフォルムと質感に綺麗な衣装を観るように胸が弾んでしまう。


そんなわけで、今回も一品一品看過せずに目で勉強しながら仕事に対しての向き合いを学ばせてもらった。きっと来年に、今日の経験は活きてくるだろう。

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