1月28日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでクレア・パイマン監督の「光に生きる~ロビー・ミューラー」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでクレア・パイマン監督の「光に生きる~ロビー・ミューラー」を観る。


2018年 オランダ 86分 カラー Blu-ray 日本語・英語字幕


いつからか牛歩のようにいくつも用意している本を毎日2ページ読み進める習慣があり、その一冊に淀川長治さん、山田宏一さん、蓮實重彦さんの鼎談による「映画千夜一夜」があって、ほとんど知らない知識の会話に映画好きのあまりの奥の深さに諦めている。ここ数年は映画を観るようになり、いくら映画館に通ったとしても映画通には決してなりえない。毎年多くの作品が生まれ、仮にそれを追いかけるだけでも相当な量であって、昔の名作といわれる映画を観るならば相応の時間を費やさないといけない。自分にはたった一つのルールがあり、映画館以外では作品を観ないと決めている。それがアメリカ映画や他の国の名作を鑑賞する足かせとなっているが、それがあるからこそ悩むことなく、また入れ込むことなく今の生活を制限できている。重要なのは、今映画館で上映している映画を観ることで、それ以上範囲を広げないことだ。


そんな条件で映画を観ている自分には、今日の作品で登場するヴィム・ヴェンダース監督やジム・ジャームッシュ監督は範疇の外にあり、名前を聞いたことはあるが作品を観たことはない。映画の好きな人にとってはあたりまえすぎる作品や監督として映像が頭に蘇り、それらの画面を撮影した今日の映画の主役となるロビー・ミューラーというカメラマンも強く思い出されることだろう。


「ニュー・シネマ・パラダイス」でもそうだったが、自分はあまりに映画の経験値が少なく、映画の教養を持って作品を語ることができない。RCCラジオの映画紹介でも単に作品だけを紹介するのではなく、映画を構築するカメラマンや美術監督などにも言及される。映画を通とする人にとっては、カメラマン、照明、編集なども重要なファクターとなり、関連として見逃せないことだろう。


なにも映画に限ったことではない。食でも劇でも、音楽でも、もしくは自分の本道とする文学だって同様で、オタクという立派な称号はとても使えず、好事家にもなりきれず、知ったかぶりだって怪しいものだ。


ただどの芸術でもそうだが、知識や経験がなくても作品そのものは味わえるもので、今日の映画も登場する人を知らなくても、強い感銘と愛惜を受けることはできる。自分の知らない世界に名を馳せる映画作品をカメラにおさめてきた人間の一生を回顧した内容は、本人の手持ちカメラによる映像がなにより生活感を持って伝えてくれる。自分は手持ちカメラの映像に酔いやすいから、映画の後半に気分は悪くなってしまったが、三脚で固定された端正な画面と異なり、その場の臨場感をじかに伝えるカメラの動きは実際の目そのものを持っている。


それは写真も同じかも知れないが、動きがあってこその映画なのだ。音楽を足せばいくらでも様変わりするモーションがいつまでも命を保つようで、仕事ばかりで家におらず、いつでもカメラを回し続けた職人気質のカメラマンの生涯は愛が常に置かれていた。


「映画千夜一夜」で楽しそうに語るありのままの三人は、ただ映画への愛がそうさせているだけで、世間で言われる映画オタクも同じような愛情が知識と経験を蓄えさせたに過ぎない。すると制限を設けて接する自分は、結局映画への愛が足りないだけで、知識や経験を持ち出す時点でもはや間違っているのだろう。


何にしても、有名映画の断片も貼られたこの作品は映画への愛が基本にあり、それをまず成り立たせる映像そのものへの情熱が童心で語られている。知っている人は腋をくすぐられるようで、知らない人は好奇心が膨らまされていくだろう。


上映後に外へ出ると、ふと夜の影や、4人並んで走る向こうの歩道の自転車の列などを目で追ってしまう。大切なのは動きの中の物語を想像することで、そこに純粋な好奇心を持って近づき、生命を与えることなのだろう。常に止まらず時間の中で動く世界の中であって、光に重心を置き、視点を置いて見出していく。カメラで常に撮り続けたロビー・ミューラーはピカソのような偉大な目をしていて、世界をどのように観たら豊かになるかを、見開かれた眼で純然に回してくれる素敵な作品だった。

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