1月9日(土) 広島市中区本通駅から広島市安佐南区広域公園前駅を走る「広島新交通1号線」に乗る。

広島市中区本通駅から広島市安佐南区広域公園前駅を走る「広島新交通1号線」に乗る。


雪をあまり知らない生まれ育ちだからこそ、銀世界に憧れてわざわざ用もなくアストラムラインに乗ってしまう。いや、用はある、インスタントな旅情を味わいたいからこそ、車窓世界のリズムに乗って叙情に浸りたいのだ。


記憶に音楽をはめ込むよりも、音楽に記憶をレコードさせたかった。7年前くらいになるか、柴又に住んでいる時に大雪が降り、大綿が降る外をわざわざ長靴をはいて夜の中川の河川敷を歩き、その時にショスタコーヴィチの交響曲第10番を聴いていて、疾風怒濤の第2楽章と吹雪が一体になって襲ってきた高揚感が忘れられない。


そのようにアストラムラインからの雪景色を音楽に詰め込むべく、北欧らしい寒さの名前を持つニールセンの交響曲第3番を聴いて電車に乗ったが、それほど雪は積もっていなかった。


大町駅あたりから線路に雪が残り、車内の寒さも伝わってくると向こうの山ははるけさを感じさせる太陽と雪の輝きを持っていた。


安東駅あたりで屋根に雪が残り、山の斜面に切り開かれた家々は美しく反照していた。


伴中央駅あたりにくるとやや雪が減少したので、長楽寺駅裏の山と麓の家並みがもっとも雪らしい風景を自分に感じさせた。


片手間の電車旅行らしく、それほど望郷感を抱かせる体験はなかったが、小雪のちらつく電車のテンポは躍動感があり、駅を降りた時の寒さは体の芯に素早くとびつく凍てつきがあった。


音楽に心境は記録できたとは思えなかったが、いくぶん退屈と思える時間がのちのち良く取り戻される時があるからわからない。目だけでない皮膚も含めた感覚を積み重ねたが、いつか活きるだろうと帰りの車内に文章を書いた。

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