12月6日(日) 広島市南区比治山本町にある南区民文化センター・スタジオで「寅卯演劇部 第2回公演 『夜を照らす人』」を観る。

広島市南区比治山本町にある南区民文化センター・スタジオで「寅卯演劇部 第2回公演 『夜を照らす人』」を観る。


作・演出:上岡久美子

舞台監督・音響:池田典弘

舞台美術:奈地田愛

照明:木谷幸江

演出助手:松本朋子

映像:川島誠浩

出演:上岡久美子、立川茜、落合晶子、青木潤、鈴木陸太、林大貴、クラシキマコト、川村祥太、塚本明日香、松本朋子、松田求


寅卯演劇部の公演は今回で2回目らしく、観劇を趣味とするようになってから自分の経験年数よりも少ない数字に初めて出会った。とはいえ、観に来ている人はアステールプラザで見たことのある人が多く、関係者も同様に覚えた顔ぶれがちらほらするから、経験は決して浅くない。


そんな寅卯の演劇は、月と水が物語を彩り、血と性が主題に扱われていた。舞台装置は階段と梯子が高低差を作り、中央にブルーシートの小屋が陣取っている。その風貌は、昔の新宿駅に立ち並ぶ宅地や、江戸川河川敷に広い土地で構えて犬まで飼っていた臭い屋敷を思い出させる。小道具は少なく、象徴的な赤いハイヒールがいつまでも足を揃え、ブラックボックスが何回か座る場面の土台となっていた。


前半に気になったのはミステリーのように亡くなった人物を捜す物語構造で、散らばった要素と細かい場面運びがやや説明らしく立っており、劇ではあるが仕草や会話に演出としての旨味や人情味がやや欠けているようで、月と水を扱いながらかしこまった緊張感というか、形式ばった硬さが拭いきれず、激しく叫ぶ動作が少なからず使われることで、その効果は連打されてややヒステリックな大味となり、感情移入ではなく遠ざける効果も生んでいるように思えた。


暗転の際に舞台上の動きが見えてしまうのはこのスタジオの特性だろうか、人物の動きで流動的に場面の切り替えをしていた。ただ、感情の吐露となる場面に向かう流れが直情的で、もうすこし回り道とおさえなどがあると展開に起伏が生まれ、観客にもリラックスするゆとりが生まれたかもしれない。


休憩後の後半は自分も休んだからだろう、物語の流れはよりスムーズに運び、ばらまかれていた複線の回収としてつぎつぎと旨味が発生して良い劇空間となっていた。特に送迎でホテルに向かう場面の前後に時間を多く使わせていて、そこでの臨場感は役者の顔形もさることながら、声の艶と震えが夜のネオンを照らすように抒情的な雰囲気を作っていた。


物語にのめり込むよりも、戯曲の構成やセリフの連関に意識は向かってしまう前半だったが、後半には各役者の役柄への没入にも慣れて、性同一性障害の顔立ちも男らしく見えれば、市原悦子さんのような上岡久美子さんも性格俳優に思えるセリフと抑揚はあったが、それが役として感じられるようになった。立川茜さんの発声は涼しくも芯があり、顔立ちだけで神秘的な情感を生み出して、スポットライトを受けての横顔は特に優れたシルエットを象っていた。


細かいことを言えば音楽の使用頻度と効果音の淡白さ、より幅のある照明の使い方や手足細部にわたる神経の入れ具合など気にしたところはあったが、そのあたりは好みの問題となるだろう。前半の硬さはほどけて、後半には演劇らしくまとまる力のこもった舞台だったので、キャスティングの面白さと豊かさが継続されるならば、より違った色も今後観れるだろうと楽しみになる公演だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る