10月28日(水) 広島市中区大手町にあるフランス料理店「6ème」で飲んで食べる。

広島市中区大手町にあるフランス料理店「6ème」で飲んで食べる。


連日飲んで食べているが、適度を保てば朝は軽く、日中も二日酔いではなく前日の楽しい余韻が断続して浮かび、心は閉じるよりも開いた気分にいることができる。


朝から夜を待っていた初めての「6ème」さんでは、話を聞きながら目から見えない鱗が落ちるように、感受性と想像力に表層ではない内面の係属が富んでおり、寓意に象徴が現実の感性で様々な物語の中に登場して、歴史や神話を間近に感知するように、映画や小説の話が実際に存在していることに触れながら飲んで食べた。


口当たりよくふわっと広がるブルゴーニュの白で乾杯して、最近知ったブッラータチーズのミルキーなコクに舌鼓が鳴る。ビーツにリンゴという赤を基調とした甘みと酸みがチーズに味を塗るようだ。


タコは燻製らしい香り付けがされてあるものの、食感は硬直せず柔らかさを保ったままで、パクチーに風味が触手を広げる。


話しながら手仕事できるのが女性といえばおそらく正しくなく、カウンター奥で調理しながら空にならない会話をできる男性も大勢いる。熟練の違いかもしれないが、自分のような単細胞と形容される性格は、手と口が分離してしまい、次々と運ばれる皿に置いてきぼりされてしまう。それだけ会話は盛りあがっているにしても、木の子の出汁と一緒にヒラメを良く噛んでいる間にザクロとトレビスのサラダが運ばれていて、まるでピザを十字に切り分けるように皿の上に四分の一が残り、塩味の効いた味がよほど美味しいらしく、身内からもう少し、もう少しといった具合で領土が削られてしまい、残り物には福などなく、鈍くさい者は預かるものが少ないと慌てる。


ザクロの色で描く自画自賛のシナリオ、という歌詞を浮かばせるフルーツは、千夜一夜に登場する残酷で淫猥な物語も連想され、白い部分がチーズと見紛うトレビスと一緒に今夜の話にそぐう色調は海を感じさせる。


メインの豚肩肉の焼き加減の鮮やかなこと。メニュー表には子羊もあったから、おそらく色合いは似た焼きあがりで、脂と旨味の明るさと存在感は同じ位置になるのだろう。フライパンとは異なり、じっくり熱の空気に浸透された肉汁の質量は目の覚めるおもいがする。


クセを持ったオレンジがかった白ワインのボトルはすでに尽きていたので、赤ワインのグラスを追加してデザートを飾る。アニスがすっと香るバニラアイスは白い隠し味を持った栗の季節のモンブランで食べられ、次いで柑橘香るマスカルポーネを瞬時に食し、楽しい時間の進むのは早いと毎度のことを意識のピリオドで気づかされる。


レシピ本ではその味わいがわからないように、小説や映画で物語を知っても実際に聞く話とは伝わってくる情感の強さは異なる。実体験としての言葉は強い同調と感動を引き起こし、懐古した自身の性質との接点を振り返らされて、すべてはつながっているという当然のことで今があり、わずか先の未来に帰ってくることもあると想像される。


作品ではなく、人からの話も同じように学ぶところがある。紹興酒でふらついたあたりから人との接点を求めるようになったのだろう。自分が他人を映していることはすでに知っているが、改めて見直されると、普段はまあなんと無口で無愛想な自分に多く囲まれていることだろう。そんな環境で憤り、一人閉じ籠り、孤島をわざわざ拵えて身構えているのだから、肉弾だ。他人は自分を鏡に反射していても、鏡が自分に語りかけてくれることは現実になく、あるのは頭の中か、混迷した意識の幻覚だ。鏡の姿を動かすには、自分が動くしかない。


テーブル席での自他を見つめる愉快な会話から店を出ると、美味しい料理とワインを提供してくれた素敵なこのお店のご夫婦と、今度はカウンター席で話してみたいとしみじみ思った。

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