10月4日(日) 広島市中区流川町にある「酒菜 山もと山もと」で飲んで食べる。

広島市中区流川町にある「酒菜 山もと山もと」で飲んで食べる。


すこし気になる地ぐ酒ぐが始まり、「酒菜 山もと山もと」さんへ行くというので連いて行った。


前の四連休から飲食店に客足が戻っているようで、準備が儘ならないらしい。仕込みも読みにくいが働く人の数は簡単には戻せず、「酒菜 山もと山もと」さんも連日満席でうれしい悲鳴が続いているそうだ。


たぶん気になる地ぐ酒ぐのスタンプカードを持っていなかったので、隣で受けている特典が羨ましいので購入した。冷酒のしぜんしゅで乾杯して、お通しのバイ貝の旨煮の身を抜くのに失敗して飲み食べ始める。


無性に欲しくなる食べ物の中で、焼き鳥は時折浮かんでくる。ちょうど昨日がそうで、レバーが食べたくて閉店間際のそごう広島店の地下へ行き、タイムセールで買って満たしたばかりだ。焼きたてが食べられると知っていたら、前日の欲を我慢しただろうと、もも、すなずり、肝、つくねを注文する。


津和野で食べた葉わさびが忘れられないので、焼きあがる前にちびちび鮮烈な辛みを口にする。多めに箸でとると、一段、二段、三段と口のいたるところで辛みが炸裂して、目がつぶれてしまうと思うほど。一気にたくさんの葉わさびを口にしたらショック死するのではないだろうか。


最近タコと一緒に目にするピヨーネは毎度のことながら宝石のようで、オリーブオイルをまとって薄切りのタコを合わせると、生ハムとメロンのような定番になるだろうと思ってしまう。むしろ、すでにそうなっているのかもしれい。


やはり焼き鳥は焼きたてにかなうものはない。塩のももとすなずりを口にすると熱と味の柔らかさが広がり、水気と脂が踊るようだ。とにかく肝が大好きで、レアの味わいは焼き鳥屋で働いている頃に覚えてしまい、いまだ取り憑いてやまない。その依存性のある味は欲望を真ん中から満たしてくれた。皿まで舐め回したい甘いタレがおいしく、角はきりっとしているようでも中は血のように柔らかい。


満席の店内で大将は無駄なく動き続けていて、飲食店での一人と二人の大きな差を感じる。どれほど早く動いても量には限界があり、どうしても提供に遅れることもある。空腹でしかたない昼時なら困ってしまうが、日頃の動きはすこぶるせっかちでも食事はゆっくりする自分としては、急ぐ用事がないのでちょっとずつ運ばれるのはかまわない。それよりも手抜きなく一品一品料理していく姿勢を味わうようで、つくねは焼く前に串に握り、厚揚げは豆腐をその場で揚げてから焼き、生姜はわさびのようにすりおろしをつける。この一手間が大きな味の差を生み、つくねはハンバーグよりもほろっとほどけて、厚揚げはいまだかつてないやわらかさで中がとろけ、生姜は豊かな膨らみある風味で味を添えていた。


とどめは焼きおにぎりで、土鍋で炊かれた米で握られ、やや分厚い三角は炭火でじりじり焼かれ、タレにおこげをまとって出された。これが最高に美味しく、おかかの香り良さに、とりみそのぐっとくる旨味がほくほくしていて、たまねぎの甘さとしじみの出汁が濃くならない中にしなだれる豆腐の白い味噌汁ですっきり締められる。


つい比べてしまうのは焼き鳥屋でアルバイトしていた自分の経験で、席数は異なるが、焼き場が1人、刺し場が1人、それにホールが2か3人で、冷凍されたおにぎりの解凍後の焼きや、すでにおろされた生姜など、提供までの手間省きも思い出された。


忙しい中でも料理は手抜きがなく、一品一品に実なうまさがあった。それがあるならいくら待ってもかまわない、燗酒が間に合わせてくれる。そんな感じで肝心な笑顔を絶やさない大将を見ているとついつい飲み過ぎてしまい、心優しさに打たれて最後は酩酊状態になっていた。火炎と煙に燃える串で勢揃いする焼き場をみながら、次は別の串も食べたいとつくづく思いつつ、菜箸と包丁使いもみていて、まな板を使った料理も欲しくなってしまう。

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