9月19日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアンドレ・テシネ監督の「見えない太陽」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでアンドレ・テシネ監督の「見えない太陽」を観る。


2019年 フランス、ドイツ 102分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督:アンドレ・テシネ

原案:アンドレ・テシネ、アメル・エルワン

脚本:アンドレ・テシネ、リー・ミシウス

撮影:ジュリアン・ハーシュ

音楽:アレクシ・ロール

出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ケイシー・モッテ・クライン、ウーヤラ・アマムラ、ステファヌ・バク


ウィルスでもちきりの世界にあると、数年前にニュースをさらっていたISが過去にあると思えてしまう。ニュースを知らないだけで、欧米諸国の若者がイスラム教の戦闘員として渡航を企てる物語を描いたこの作品を目にすると、やはり古く思ってしまうのは外部に置かれた者の都合の良い記憶の浄化作用だろうか。


ドキュメンタリー性を持った内容は手持ちカメラでの追跡らしいカットが多く、揺れる画面に弱い自分は酔ってしまった。ある日突然家に戻ってきた孫がイスラム教を信奉するようになっており、礼拝する姿を偶然見た祖母の心境はいかほどだろうか。異文化の宗教を固定観念で遠ざけてしまうステレオタイプの反応は道徳心から遠いが、日本においてもいくつかの宗教団体に違和感を覚えるのは実生活に染み着いているので、差別はいけないと思いつつ、古い昔から迫害される民族や宗教の近くにあることが知れる。


前半から苛立ち、落ち着きなく動く男性の姿が描かれており、医療の仕事に何も関心を持たずにただこなす女性も登場する。どういう人物がISの戦闘員として渡るのか、その背景を描く内容はどことなく想像していたようにただの若者で、ネット情報の鵜呑みや、退屈まぎれのファッションとしての面も強くあり、無分別だからこそ、若者の一時の気まぐれでもあると軽々しく描写されている。渡航前の形式的な結婚はパソコン画面を通しての宣誓となり、インターネットを駆使した戦略をニュースで聞いていたとおり、現今の方法による草分け作業が無機質ながら生きたアラビア語の抑揚で語られる。


ピレネー山脈近くの牧場が舞台にされていて、桜の満開が中東地域のアーモンドを想起させ、馬の調教と子供の馬術の訓練には、おそらくメタファーとしての教育が込められているだろう。社会問題として正面に取りあげたこの映画は、酒や薬物、もしくはギャンブルや男女関係などの依存症に対しての処置のようで、体験者との面会や渡航計画の封じ込めなどの場面は、何かに取り憑かれた人間に対して処方できる力業として説得力を持っている。


その当時の現象として切り離してしまいがちな世界の問題を扱ったこの映画は、細かい描き方で情報を伝えているが、古い雨傘として絶世の美女を誇ったカトリーヌ・ドヌーヴさんは老いても開かれた目が美しく、牧歌的な馬の美しい姿態とその存在の清らかさをつい重ねてしまう。世界は変わっても良き家族は変わらないのだろう、家庭の温もりはいつでも帰りを待って受け入れてくれることを、名だたる女優の悩ましい姿は静かに伝えている。

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