9月8日(火) 広島市中区本通にあるバー「PUB and BAR PIC」でメスカルを飲む。

広島市中区本通にあるバー「PUB and BAR PIC」でメスカルを飲む。


「小料理 はせべ」さんのあとにもう一杯ということで、行ってみたかった店について行った。


ファサードからの大きなガラス窓は階段のあるサイドまでひらけていて、浮遊性を持った空間内には夢粒のごとく無数の酒が立ち並んでいる。耽美的なまでに輝く瓶は財宝という形容がもっとも適い、低音の美声による男前のバーテンダーさんの知識と情熱は煌びやかで、時折見せる笑顔には、優れた顔立ちによる微笑みの効果を男ながら受けてしまう。


ここに来たら飲みたいと思っていたのがメスカルだった。オアハカで一度飲み比べしたきりで、それ以来口にしていない竜舌蘭の蒸留酒は、メジャーなテキーラではない知られざる味がある気がしてならなかった。


けっこう酔っていたので、会話に参加することなくいきなりメスカルを注文して、ストレートでお願いする。あとあと考えればロックのほうが美味しく味わえるのかもしれないが、特徴のある芳香と風味を感じるには間違っていなかっただろう。


気を利かせてもらい、白と寝かせた色付きを飲み比べする。昔の記憶をたどるような独特の風味は、これこそアガベと結びつくほどの経験を持ち合わせていないにしても、テキーラにも通ずる風味らしさがあるようで、放散する芳香に甘みがあり、色のあるのは寝かせた分だけ丸みがあった。とはいえ、あれだけ鮮烈な薫香ながら酔いの記憶はイメージ以外も消失させてしまうので、あれだけ鮮明に味わったような気はするのだが、どうも思い出せない。おそらく、また違ったものを飲んだ時に返ってくるのだろう。


宙に飛ばしたジンもあり、話を聞いていて、自分の知らない世界は知識を得ることで領域を広げていくのは、まるでいまだとどまらない宇宙の成長のようだ。しかし自分という個人に近づくのはいつかの終わりで、経験は得れば得るほど命を削っているようにも思える。自分以外はこの先も広がっていき、ついていくにはあまりにも限度がある。今日の夜の2店だけでいかに自分の存在の小ささを思い知ったか、もはや、欲をかけばそれだけ潰れてしまいそうな宵だった。

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