前のエピソード――７月２３日（木）広島市中区本通にあるフランス料理店「ラ・ミッション」で本日のランチを食べる。

広島市中区中町にある「広島クリスタルプラザ」のイスに座る。

数週間前に「はせべ」さんへ向かっている時、雨の中を歩いてここで休憩したことがあった。前々からこの場所は知っていたが、実際に座ってすこし見上げると、ところどころ錆びてはいるが鉄骨のリズムが悪くないと思った。雨は防げるので、ここは座れる場所と記憶して、再びやってきた。

今日のような雨だか曇りだかはっきりしない天気は日差しが弱いので、湿気はあっても風が通って涼しく感じる。数ヶ月前から毎日建築に関する本を読んでいて、わからないながら毎日接しているとなんとなくその分野の味わいが知れるのは、工芸品や服飾と似たようなもので、最近は紙屋町交差点のガラスの建築に今さら良さを感じたり、平和記念公園の唯一無二のピロティを眺めたり、映像文化ライブラリーを出てから地下道を通り、体育館のプールとジムに面する広場の渡り廊下を含めた空間の規則性に唸ったりする。どんな物事も、まず味わいを得るのは頭よりも感覚が先にあり、それから表現をあてはめるべく言語化が行われるので、わからないまま接し続ける順応の一端がこの椅子から見える風景を味わわせているのだろう。

４連休開始だというのに、コインランドリーで靴下を落とし忘れたり、昨日はハラペーニョの酢漬けを床に落としたりと、手元と注意が定まらずにこぼしてばかりいる。すっきりしないまま今日を過ごし、貴重な時間を無為に愚痴と一緒にこぼし続けているような気はするけれど、それは望む欲求に対して、食でも文でも、体が応えられないから不満なのだろう。

そんな時は背もたれに体を任せて頭をストップさせ、街行く景色を観る。「今日も何もしていない」なんて口癖に対して、「何もしていないからこそ何かをしている」などと、自分以外に休息について意見を述べることを我が身に向けてみる。

こんな時こそ、イスが何より休みとなる。家の外にいる間は。