7月18日(土) 広島市中区八丁堀にあるサロンシネマでポン・ジュノ監督の「スノーピアサー」を観る。

広島市中区八丁堀にあるサロンシネマでポン・ジュノ監督の「スノーピアサー」を観る。


2013年 韓国・フランス・アメリカ 125分


監督:ポン・ジュノ

原作:ジャン=マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルグラン、ジャック・ロブ

脚本;ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン

撮影:ホン・ギョンピョ

編集:スティーブ・M・チョー

音楽:マルコ・ベルトラミ

クリス・エバンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、ジェイミー・ベル、オクタビア・スペンサー、ユエン・ブレムナー、コ・アソン、ジョン・ハート、エド・ハリス


これで鑑賞5作品目となるポン・ジュノ監督のなかで、これがどれよりも自分の好みに合わない作品だった。まず、言語が二人の登場人物以外はほぼ英語となり、韓国語の国民性に根付いたやりとりを求めていた自分の期待から外れた。次に、SFらしい内容となり、あの大衆定食屋のような小汚い家庭の煩雑さと荒っぽさが見られなかった。そして、キャストがほぼ西洋人となり、モンゴロイド特有の表情から伝わる情報と演出が散見できなかった。


CGも多用されているのだろう、冒頭から舞台が説明されると、直ちに緊迫した状況となり、前振りとなる状況説明なく、ただちに革命へと突き進む。今まで観たポン・ジュノ監督からすると、他人としか思えないほどキャスティングや作品世界に違いがあり、幻滅を感じる。知らないからこそ、ハリウッドらしいと思ってしまうほどの凝った舞台セットに、待ったをかけない展開の早い編集と、停止して長回ししない余裕のないカメラワークが続き、ポン・ジュノ監督という固定観念がなければすんなり入れたのだろうが、痛みを感じるほどの摩擦が進んでいった。


歯をむき出しにする中年女性の魅力的な総理が登場するものの、展開と演出は一面的なほどで、アジア人らしい個性が見受けられない。待ちに待ったソン・ガンホ氏が登場するにしても、翻訳機械の使用によってため息が出てしまう。結局、モンゴロイドとして生まれ育った自分にとっては、西洋人の顔立ちにはわからないところがあり、眉を顰める一つの仕草にしても、国云々ではない人種の違いが潜んでいることを痛感させられるのは、ソン・ガンホ氏とコ・アソン氏の表情が親しみやすいからだろう。


トンネルまでの展開など、アクション好きならともかく、解せるが解せない内容となっている。暗闇の中で火を活用した展開など、つい疑問を覚えてしまうが、こういう場合はただアクションを堪能するのみがよいのだろう。


中盤以降になると、この映画の描く主題が全面に現れだす。派手なアクションは根強くおさまらないが、この列車の存在が寓意する生態系の説明は、納得するところがある。秩序とバランス、警鐘するような内容は常にとどまることを知らない人類の今の歩みに合致して、これこそ今を描いているなどと思ってしまうだろう。映画が弁明するまでもなく、生態系のバランスは研究者の中で知られているであろうし、増えすぎた数を間引きするのは、頭で考えることなく酪農家が古い時代から行っていることだろう。


戦闘車両よりも、農園、水族館、寿司バー、美容院、保育園、クラブなどの車両のほうが興味深く感じるのは、ヒエラルキーが明瞭となって、上下の違いに世界の矛盾を感じるからだろう。黒いプロテインゼリーの原料も、今はわりとブームになっているから面白いが、おぞましいものがある。


太平洋戦争の末期に南方の島で実際に起こった出来事が列車内でもあったと語られ、そこに飢えた虎に身を捧げるような犠牲心も描かれるが、その背景には仕組まれた計画もある。このあたりの描き方は鋭いものはあるが、殺人事件を取り扱った作品のほうにより深淵を感じてしまうのは、趣味の違いとはいえ、他があまりにすばらしかったからこそ物足りなかった。


結局、意図する内容の違いでしかない。などといえるかも知れないが、こういう作品も撮れる能力というのは、本当にずば抜けたものだろう。跳び蹴りが少なく、雨の中の駆け足もなく、家庭での食事が寿司バーでの並びだとしても、これはポン・ジュノ監督の作品一つなのだ。


とはいえ、自分の好みの中でどれほど感動したかと比べれば、今まで観た5作品のなかで最もしらけることが多かった。これは、本当に好き嫌いでしかないだろう。

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