7月1日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでリシャルト・ブガイスキ監督の「尋問」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでリシャルト・ブガイスキ監督の「尋問」を観る。


1982年 ポーランド語 117分 カラー 日本語字幕 デジタル・リマスター版


監督:リシャルト・ブガイスキ

脚本:リシャルト・ブガイスキ 、ヤヌーシュ・ディメク

撮影:ヤツェク・ペトリツキ

美術:ヤヌーシュ・ソフノフスキ

編集:カタジナ・マチェイコ

出演:クリスティナ・ヤンダ、アダム・フェレンツィ、ヤヌーシュ・ガヨス、アニエシュカ・ホランド、アンナ・ロマントフスカ、オルギエルト・ウカシェヴィッチ


今月は感染症対策による閉館で行われなかったポーランド映画祭が戻ってくる事となり、残念に思っていた分だけ期待して待ち構えていた。ただ少し無念なのは、今月の夜の上映時間はほとんど18時となり、オープニングをだいたい見損なうことになる。しかたない。


今日の作品はデジタル・リマスターにより画面がやや鮮明すぎるようで、そう新しい作品ではないのだが人工的な質感が否めず、決して優劣ではないのだが、好みとしての粗さが足りなく思えてしまった。


数日前に観たポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」も拷問を扱っていたので、偶然とはいえ比較しながら観るかたちとなった。今日の映画はスターリン体制下のワルシャワで、とある人物の告発となる虚偽の発言を得るための尋問となり、安直な犯人の穴埋めにしようとする数日前の映画とは目的が異なる。とはいえ、偽りを仕立てあげる為の動きには変わらない。


拷問に国民性があるのかと考えれば、江戸時代の重たい石を足に乗せるやり方を思い出してしまう。ポン・ジュノ監督の映画での拷問は、人情のある親しみを持ったふれあいのようで、刑事と被疑者がテレビで刑事ドラマを観ながら一緒に飯を食べているのに、時間になったらそれぞれが所定地に着いて拷問を始めて受けるという普通の習慣としてあるようで、拷問を行う人物は罪悪感など持たず、行為に疑問を抱いたことがないと思えるほどに、近所の知り合いを茶化す気軽さがあった。


ところがリシャルト・ブガイスキ監督のこの作品は、諜報に過敏なこの時代の政治体制を扱っているので、最近では香港で施行された香港国家安全維持法や、中国でスパイ容疑により逮捕されていた日本人の帰国などが関連するように、一つの事件に対してのコマ割りではなく、国家という巨視的な中での小蠅潰しとなっているので、感情を見せない冷徹な機械らしい拷問形式が基本となっていた。


それでありながら、拷問する人間の描き方はどうだろうか。第一の登場シーンにまるで瞬間的な噴火による激怒が起こるのだが、のちのちになってこの発作的な行動の解釈が異なっていく。冷酷無比で威圧的な人間だと勘違いしたが、物を思い切り投げたりする野蛮とも思える行動は夫婦喧嘩にも見られる反応で、猿芝居らしい尋問方法の拙さが提示されていくと、幼児らしい癇癪だったのかと振り返ってしまう。


長いカメラ回しは少なく、追跡してズームアップで表情を捉えるカットが多い。表情の変化はそれほど複雑でなく心は見えるようだが、ややくどい印象を覚えるのは、激烈な感情表現が多く、むごたらしい場面が繰り返し続くからだろう。ただそれは、青竜刀で湿気の中で腕をぶった切るような冷酷さではなく、慣れない人間の戸惑いを隠した鉄面皮のようで、平然を振る舞うからこそ心中は穏やかでないように思える。ただ、そのような素人らしさを添えて尋問する側を描くからこそ、スターリン時代の政治統制を皮肉しているとも受け取れて、いくら拷問されても友人を貶めることを徹底拒否した我慢強さにポーランドの国民性があり、また、どうしてそこまで頑なに拒否したかという個人的な理由も隠れているのだろう。


綺麗な女性が陵辱されていく過程は、見ていて決して気分のよいものではない。ようやく解放される間際になっても、皺が多く顔を蝕み、どれほどの年月が経ているのかわからないが、心の状態こそが老いをそのまま映すことを示している。


ポーランド映画祭の初日作品は、まさにポーランドらしい忍耐と運命を直に味わわされる、肉に染みるが効くかわからない薬のような内容だったといえば、この国を狭い一面でしか見てないことになるだろう。

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