6月10日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで増村保造監督の「曽根崎心中」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで増村保造監督の「曽根崎心中」を観る。


1978年(昭和53年) 行動社、木村プロダクション、ATG 112分 カラー 35mm


監督:増村保造

脚本:白坂依志夫、増村保造

原作:近松門左衛門

撮影:小林節雄

美術:間野重雄

音楽:宇崎竜童

編集:中静達治

出演:梶芽衣子、宇崎竜童、井川比佐志、左幸子、橋本功、木村元、灰地順、目黒幸子


3日前に観た心中が特殊な様式ではあっても、映画作品らしい息づかいがあることに気づかされた。今日の作品が映画でないというよりは、ブルースらしいギターのメロディーにシンセサイザーの音色で色づけされた展開は、黛敏郎さんの音楽に比べて親しみやすく、ワンカットの長さが短く扇情的に編集されていながら演出はより過剰になされているので、眠けを起こさせない派手な内容となっているだけのことだった。


モノクロとカラーの差がずいぶんと大きく、肉感を得た色彩の動きだからこそ作り物らしい人工的な雰囲気は削がれていて、まるで刑事ドラマを観るように飽きさせない臨場感が続いていく。色を持った衣装やセットも目を引く力があり、特に文字通り袋叩きされている場面の銀杏の黄色は鮮やかに散らばっていた。


この映画の感想を第一にあげたくなるほど暴力シーンが念入りに描かれていて、殴る蹴るの横暴がとまらず、棒を持って叩き伏せるやり方などは、子供に悪影響を及ぼすのではないかと心配させるほどの入れ込みだった。


テレビでも映画でもそれほど時代劇を観た経験はないが、この度を過ぎた動きこそ時代劇の一形式だと首を縦に振るほどあからさまに動く演技だった。声音の凄みと表情の動きは能楽を外した古典芸能を手本にしたようなリズムがあり、一定の運行を持ったロボットらしさはあるものの、筋金入りらしい迫力は圧倒されるばかりで、特に橋本功さんの九平次の旨味はずば抜けて情緒をくすぐるものがあった。3日前の映画でも感じたが、どうしてこうも悪役は生動して跋扈するのかと、悪が持つ魅力の一面を考えてしまった。それは心中ものにつきものと思われる頼りない男に比べて、気概が様になっている女の方が壮絶だからだろうか。端役としての叔父でさえも豪気な面を全身に表しているのに比べて、まあなんと情けない男だと主人公にあきれるものの、ラストでは目を瞑ってしまいたくなる鮮血を見事に描いているので、面目躍如などと、死でもって購う恥のすすぎの生き様をくらわされる。とはいえ、ラストは少ししつこいが。


今になって日曜日に観た映画の良さを知るように、エンターテイメント性の高い今日の作品で比較対象を得たようだった。遠くと内を見るヒステリックな眼球の動きから始まり、この映画の見所はなんといっても梶芽衣子さんの気骨ある女の姿で、岩下志麻さんとは異なる剛直な強さが身にしみた。

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