6月10日(水) 広島市中区幟町にある洋菓子店「a・be(ア・ベー)」のクッキーとナッツを食べる。

広島市中区幟町にある洋菓子店「a・be(ア・ベー)」のクッキーとナッツを食べる。


梅雨入りした今日のような日には、青天の霹靂ではなく、天気予報よりも雨の降らなかった曇天の斜光に感じられた。夕方にはたしか青空を覗けはしたが、日頃世話になっているからといって「a・be(ア・ベー)」の菓子をいただくことになったのは、すこし色合いが異なる。白檀ではなさそうだが、落ち着いた香りのする箱の中には、デザイン性の高いパッケージ同様に黒に近い余白にこだわった包装に菓子は包まれていた。


オリーブクッキーは塩とバター、それにブラックオリーブやアンチョビの旨味が混在していて、甘く華やか、もしくは素材と素朴、それらと異なるチーズやワインと相性をみせそうな酒を欲しくなる味となっている。ナッツキャラメリゼは名前のとおりの香りがあり、口にするとメープルの甘みが表面から第一に舌に届くが、そのあとはアーモンドの風味の良さを味わえる。これは蒸留酒に合いそうで、ビールよりもウィスキーのほうがよさそうだ。


女性や子供が喜ぶというよりも、酒を好む大人が味わう菓子みたいだ。ならば自分はどうだろうかと考えると、おいしく味わえる。それよりも、こういうプレゼントを貰うことが随分久しぶりのようで、おそらく都合よく忘れる癖があるから探せばわりと近くにあるかもしれないが、今日読んだ本の内容で出来事をとらえるならば、過去と未来の接点である現在こそ永遠の存在であるという生の実感が生き生きと自分の情感を刺激するので、ひどく小っ恥ずかしくなっている。それをある人はシャイと呼ぶかもしれないが、自分としては、嬉しいことがあるとその分だけ悲しいことが迫ってくるようで、それは刹那的な感覚ではあるにしても、幸福を得る瞬間にこそ、永続ではなく、一瞬の短い儚さを強く実感するもので、それが悲しさとして切実に感じるからこそ避ける傾向があるのかもしれない。


などといえば回りくどいが、短く言うならば、自分はプレゼントを貰うに値しないという自己評価がある。だからこそ、貰いすぎという嬉しさに耐えきれない挙動不審が発生してしまい、多弁になってしまう。いわば、他人からの感謝を受けきる器がないだけなのだ。


嬉しかった、ありがとう、このように簡単に言えればよいものを、わざわざ無駄口を並べて言い訳するほど、珍しく有り難かった。

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