5月31日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今井正監督の「越後つついし親不知」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで今井正監督の「越後つついし親不知」を観る。


1964年(昭和39年) 東映(東京) 112分 白黒 35mm


監督:今井正

原作:水上勉

脚色:八木保太郎

撮影:中尾駿一郎

音楽:池野成

美術:森幹男

編集:長沢嘉樹

出演:佐久間良子、三國連太郎、小沢昭一、田中春男、杉義一、谷本小夜子、相生千恵子、北林谷栄、殿山泰司、北城真記子、五月藤江、清川虹子


映画観賞を再開してから、真に迫ろうとする芸術らしい作品を観た気がした。冒頭の酒蔵のシーンからして、息づいている構図の厳格さと編集の密接は強く、ただのワンカットが迫力という意味をもった基礎として、本物の煉瓦らしい強固な意志を持っていた。


三國さん演じる権助のふてぶてしさには粗野で横暴だからこその魅力があり、飯のかっ食らい方や電車内で寝る時の足を伸ばす無遠慮な姿は不自然なほど生き生きとしていて、あれこそは演技として観る不自然な味わいだと笑みがこぼれるほどだった。


最近観た作品のすべてに出演していて、もはやスクリーンで観ると第一に笑いがのぼってくる圧倒的な端役の存在を示す北林さんが今日もいて、出演時間が短くなく、最後まで他にない味な役割として画面に残っているので、一時ではない出番で強烈な風味を添えていた。


佐久間良子さんの出演姿を観るのは初めてだろうか、どんなに美しく特別な女優さんであっても、顔の系統は実生活のなかで似た者が存在していて、スクリーンの中で見るには今までにいなかった目をしている女性だと思った。演技の質などはわからないが、凛としながらも気品を秘めた目をしていて、息絶えるシーンのあまりの早さは、語られる生い立ちの細かさを無惨に潰すあっけなさがあり、同情を寄せる前振りからの残酷な描き方となっていた。


昔の映画に見受けられる淡泊なエンディングが非常に効果を持っていて、そこまで運ばれる物語の流れには画面としての美しさが宿っていて、物語の深刻さや人物の内面に深く迫るよりも、とにかく映画構成としてのワンカットごとの美しさと繋ぎがあり、惜しげもなく肉体をさらし、死んだ妻の乳房に顔を埋める夫の悲嘆顔と乳首には、今の映画作品には描かれないであろう訴えかける肉の結びつきと、一時の感情の錯誤による取り返しのつかない深刻な事態の大きさと小ささが対比されていた。


前半に映画展開に即した効果音があるものの、後半の音の使い方は音楽そのものに耳を向ける良質があり、とにかく本物としての映画の要素がかしこに宿っていた。演じる人の立場を心配するほど、体当たりする演技らしい質を持った見応えのある作品だった。

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