5月30日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで齋藤武市監督の「愛と死をみつめて」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで齋藤武市監督の「愛と死をみつめて」を観る。


1964年(昭和39年) 日活 117分 白黒 35mm


監督:斎藤武市

脚色:八木保太郎

原作:大島みち子、河野実

撮影:萩原憲治

美術:坂口武玄

音楽:小杉太一郎

編集:近藤光雄

出演:浜田光夫、吉永小百合、笠智衆、宇野重吉、原恵子、内藤武敏、滝沢修、北林谷栄、ミヤコ蝶々、笠置シヅ子


日活映画というだけで、ふてぶてしい暑苦しさを予期してしまう。この作品も冒頭からカメラは人物を追いかけ、テンポの早いカットでつないで浜田光夫さんと吉永小百合さんの若い二人の青春のやりとりを描き出していく。


とびきり綺麗というよりも、顔の各部位は親しみやすい平凡さを持ちながら全体として可愛い吉永小百合さんは腰の据わった上品さと無邪気な愛らしさを備えており、ただ若いだけにとどまらないのは、声にも顔にも年齢を越えた落ち着きと気品を持っているからだろう。この死を宣告された女性に比べると、浜田光夫さんは余りに荒削りな若さとしてあり、渋みなどのたたずまいはなんら持たず、一過性の空想と熱情だけに取り憑かれた信頼できない若者の恋情らしい素振りで、言葉は悪いが山猿のような雰囲気さえある。


しかしそんな男であっても、台詞が文学作品や何かから借りた気障にもならない口調であっても、相手を恋する気持ちは本物らしく描かれている。だからこそ、相手が病院で苦しんでいるのを隠して電話を受けていることも知らず、酔っぱらって夜に電話したり、手術を隠していたことを叱ったりと、相手の気持ちを考えずに自分の気持ちをぶつけるのだろう。そしてこんな男性だからこそ、世話好きらしい一面はくすぐられて、明るさを表面に立てて我慢する女性は愛しいと思ってしまうのだろう。


前半に比べると後半の展開は濃密となっていき、大河映画らしいカットや場面の多さが死ぬまでの病院生活を細かく描き出し、吉永小百合さん演じる小島道子の苦悩は右目で繰り返し表され、そのいたいけな女性に関わって宇野重吉さんや笠智衆さんも単なる端役とならない意味深い人物として生きてくる。


病室のカーテンで着替えたあと、父親である笠智衆さんに衣装を見せる吉永さんからのシークエンスは心を打つもので、その無邪気でかわいい娘の姿が綺麗であるからこそ儚く、切なく、悲しくてたまらない心情が笠さんの動きによく表れている。


大阪弁の端役女性陣もその味のある語り口ですばらしいが、宇野さんが亡くなった吉永さんに近づいて顔を崩すときの演技もまた、ほんとうにすばらしいものがあり、信州の山の写真を病室のベッドで見る長いカットでの染みに染みてくる吉永さんの目の深い移り変わりは、滅多にない深奥をもった本物の映画の時間となっている。


浜田さんの小僧っ子らしい憎みようのない演技に比べて、吉永さんは本当に素晴らしい。表現の幅と自然さに加えて、目が語る心情の強さと奥底は気迫があり、可愛いだけで括れない迫力と魅力が全面に満ちている。死が間近に迫るからこその生きる苦悩が右目に描かれながら、それでも明るく、時には冗句にならない自殺をほのめかす姿は、あまりに痛ましい。

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