5月2日(土) 広島市中区寺町にある川岸のベンチに座る。

広島市中区寺町にある本川岸のベンチに座る。


ここは本川が天満川へと分岐する点が眼前にあり、ミンスクの巨大団地を常に思い出させる摩天楼らしい威風の基町の集合住宅が控え、対岸の河川敷は小粒な人が歩き自転車で通り過ぎる広く景色の開けた場所だ。数年前の雨の日には、入場料をけちってコトリンゴさんの歌声を雨傘をさしながら聴いた本願寺広島別院が後ろにあり、川下に目を向ければ巨大な都市とはいえない幾つかの高層建築が遠くに見える。


どんな場所に住んでも第一に生活と密着するのは川の存在で、境川、相模川、多摩川、桂川、鴨川、サン・マルタン運河、江戸川、中川、荒川、などは常に自分を吐き出す場所として多くを流してくれた……、なんて言うとあまりに古風で形式的な文句となるだろう。しかしそう思ってしまうほど、川は自分の生活になくてはならない。


そんなわけで、広島に住んで近所にこれだけ豊かな川があることに常々感動している。山も同様で、本当に遠くの丹沢や富士山を別にして、遠くない向こうに山稜の見える生活は初めてとなり、朝夕に自宅のマンションのエレベーター待ちの間に己斐の山を眺めている。


分岐という場所は心が騒いでしまう。特にここは広島の川らしく潮流に支配されていて、複雑に流れが交差している。それに水面を騒がす風も加わり、まるである日の空のように、高低様々な層の雲で描かれる複雑なシンフォニーとしての趣があり、ここに一本調子ではいかない人間の感情なんかを投影したりする。


ベンチに座っている間の余暇に、そんなことを考えてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る