3月26日(木) 広島市中区胡町にある八丁座でロバート・ワイズ監督の「サウンド・オブ・ミュージック」を観る。

広島市中区胡町にある八丁座でロバート・ワイズ監督の「サウンド・オブ・ミュージック」を観る。


1965年 アメリカ 20世紀フォックス 174分 英語 カラー


監督:ロバート・ワイズ

脚本:アーネスト・レーマン

原作:ハワード・リンゼイ、ラッセル・クローズ

音楽:リチャード・ロジャース、オスカー・ハマースタイン二世、アーウィン・コスタル

撮影:テッド・マッコード

編集:ウィリアム・レイノルズ

出演:ジュリー・アンドリュース、クリストファー・プラマー、エリノア・パーカー、リチャード・ヘイドン、シャーミアン・カー、ニコラス・ハモンド、ヘザー・メンジース


今月は1本も映画を観ておらず、期間が空くと欲するよりも、億劫になるらしい。値引き価格で「サウンド・オブ・ミュージック」がスクリーンで観られると知り、この間、ヘレン・ケラーの劇を観た感想を人に述べたところ、最初は給金や義務の為に教えているのだが、しだいにそれらではない愛情を覚えて関係を深めていくのはこの映画の先生と似ている、そんな話があった。


有名なこの作品をいまだ観たことがなかったので、とても良い機会だとは思うのだが、どうも流行病の影響を考えてしまい、仮に、そんな言葉で始まる想像が描かれると、行く気が失せてしまう。


からあげ弁当を買おうと決めているも、店の前で日替わり弁当の内容につられて転じるように、結局映画を観に行くことにした。マスクは嫌いだが、さすがに自他の配慮もあるので、いつも掃除をする時につける台南で購入したバーバリーもどきを顔にはめていく。こんな柄のマスクは、こんな時にしかつけて外出しないだろう。


どうせ観に来る人も少ないから、などと思っていたら、夜の上映だというのに20人近くいる。それもわりと年輩の人もいるから、元気というか、何と言えばよいのだろうか。


作品は、名作の名に劣らない知名度と内容だった。いまさらながら、「My Favorite Things」や「Do-Re-Mi」の曲がこの映画から生み出されて広がったのだと知った。


オペラ作品に匹敵するのは上映時間だけでなく、楽器の違いやいくつもの変奏などで彩られた豊かな音楽に、オーストリアらしい伝統衣装や当時の服飾が様変わり、心を貫くすばらしいセリフや表情などが多く溢れているのも同様だろう。


ミュージカル映画だけに限らないが、この作品には軽薄な安っぽさがなく、各要素が質の高いアメリカ映画らしい水準で共鳴している。後半も悪くないのだが、やはり前半に好みとなる素晴らしいシーンが多く、長女と電報配達人とのダンスはフレッド・アステアのいる国らしい完璧に近い躍動があり、ムービングショットと坂に遠望するザルツブルク旧市街との歌声は魔女の宅急便のような未知への快活な表明がある。デザートにザッハトルテを食べていたり、飲み物でピンクレモネードが出たりと、食に対する反応もさることながら、自身の経験として、ベートーヴェンの交響曲第6番のような嵐に見舞われながらも楽しかった湖畔のサイクリングや、疲れて木陰で昼寝していた伴侶を遠く眺めおろした坂なども思い出されて、オーストリアという特別に愛着を持つ偏りも加わって楽しむことができた。


極度に感動したわけではないのだが、雷に怯えてベッドに子供たちが集まるシーンでは、ちょっとおかしいくらいぼろぼろ涙が溢れてしまった。心に響く旋律に、私のお気に入りがいくつも歌われて、人生の大切な、最も大切な要素を感じるようで、単なる幸福ではない、かけがえのない、強烈な、言葉に表し難い印象が自身の情感を壊したのだろう。


映画を観る前から、この映画の描く内容を今の世の中にあてはめていた。知りもせずのそれは、外れることなく的中した。珍しいことでも、特別なことでもない。


実家では母親がいつも音痴に演歌を歌っていた。自分も成長するにつれて、元来の音痴が家で様々に歌っている。字面にすれば恥ずかしいというか、むしろやましさを感じるほどだ。それでも、わかっていたことだが、それは間違っていないとこの映画に教わった。ただ違うのは質だけで、心はそれほど異なっていないだろう。


つい最近も何かに書いたようだが、外出禁止やイベント中止に文句を言うのではなく、辛い時や悲しい時は自分の好きなものを浮かべて楽しく歌うこの映画のメッセージこそ、誰もが自宅でできることだろう。ただし、ナチ党員から隠れている時に息を殺さないといけないのだが、末っ子が歌を歌うことについて口に出してしまい、義母は、歌ってはいけない時もあるのよ、と言う、この事も忘れないようにしないといけない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る