3月17日(火) 広島市中区堺町にある洋菓子店「ボストン 本店」のりんごのシブーストと抹茶のモンブランを食べる。

3月17日(火)


広島市中区堺町にある洋菓子店「ボストン 本店」のりんごのシブーストと抹茶のモンブランを食べる。


広島に来て初めて入った洋菓子店が「ボストン 本店」で、それ以来買ったことはなかった。「バッケンモーツアルト」で買ったことはあったのか定かでないが、どうも広島市内にいくつか店舗があり、両方の店が自分の中で混同されている。バッケン、それに、モーツァルト、だからドイツの焼き菓子店らしいのに、ボストン、だから、赤い靴下、それに小澤征爾さん、そして指揮するクラシック、なんて連鎖していて、もう意味がない。


今日は何だか頭の意味がないように思える。前に立ち飲み屋で隣にいた男性にしつこく話しかけて、適当に相槌をされたことを思い出す出来事があり、プライベートでは無駄口が多いからか、職場を含めたパブリックでは口数が少なく、ほうれんそう以外は全て省くきらいがあり、効率と興味の2点以外に口を開くことは少ない。そんな人間が仕事の会で隣にいた年配の人に話しかけて、流されたように思われた瞬間に、手垢どころか、触りすぎてメッキの剥げた彫像のような光沢がプルーストに蘇る。マドレーヌではなく、三崎のマグレーヌのように。兜焼き。


話題はコロナだ。いつだってコロナだ。主役はコロナで、脇役もコロナだ。何してもコロナへ繋がる。話の落ちはコロナで着く。しつこいくらいに。


例えば、毎年恒例の花見会があり、今年は開催すべきか、なんて話がある。お話、食事、カラオケ大会。コロナが話題を膨らませる。カラオケで飛沫、輪になって踊れば濃厚接触、食事も口を開くから。では。


きっと、つまらない話を今日はしたのだと、帰りの信号で思った。やるなら怯えるな、怯えるなら出席するな。じゃないと、食事もなし、カラオケもなし、会話で唾が飛ぶから、みんな席に座って、咳を我慢して、じっと誰かの話をマスクしていることになる。それに何の意味があるのだろう。


おそらく今日の頭は意味がないのだろう。ぼんやりしながら、今日はボストンのケーキを買って帰ろうと決めていたので、そうして家に戻る。


りんごのシブーストは、かりっとした表面がビターに焦げていて、その下にバニラの華やかなクリーム、やわらかいスポンジ、白い生クリーム、食感の優しく甘いりんごのスライスがある。明るく、親しみやすい味となっているが、上部のカラメルとクリームがおいしかった。抹茶のモンブランは、あまり好みではなかった。抹茶のクリームの口溶けがややかたく、茶のきりっとした風味よりも甘みが強く、それはスポンジ生地も生クリームも同様で、中央に求肥があるも、全体として甘ったるさを感じた。また食感も、繊細さに欠けて、厚っぽかった。


もちろん、こんな味の分析も意味がない。今日の頭が浮かぶ感想や情感と似たように、どんよりしながらどこか薄ら寒く気味の悪い性状が底流しているようだ。


今日はビルの2階の窓に、猫が2匹座っていた。背景は白色のカーテンで、同じ格好、同じ向きで太陽を浴びていた。夜は風が強く吹いているが、昼の窓は風なんか受けず、静かなカーテンを画布にあぐらをかいていた。そして、今日の頭は、そんな気分を欠いていた。

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