前のエピソード――２月９日（日）広島市中区加古町にあるＪＭＳアステールプラザ・多目的スタジオで「広島オペラアンサンブル公演『助けて、助けて、宇宙人がやってきた』」を観る。

広島市中区胡町にある蕎麦店「築地藪そば」でせいろそばを食べる。

夕方に開いている店はあることはあるが、ちょっとおいしい食べ物をとりたいと思うと、ぴんとくる店がない。そこで考えたのがデパートの地下で、三越にはあなごめしもあり、たこがつく名前の店でもおいしいものが食べられる印象があった。

しかし実際に来てみると美味しそうには違いないが、予算はオーバーしてしまう。そこで天ぷらもつけずにせいろそばだけを食べることにする。

誰もいないカウンターに座り、すぐに蕎麦は運ばれてくる。つゆに口をつけると鰹節が非常に上品で切れ味がある。蕎麦は細くコシがあり、口当たりがとてもなめらかでのどごしも良い。わさびは荒削りで、塩気と甘さを感じるから何か入っているのだろうか、粒を噛むと風味が優れて強く、空咳を引き起こす強烈な辛さがのぼってくる。おかげで鯉のように口をあけてぱくぱくし、辛みが遠ざかっていくのを眉間に皺を寄せて待つという、なんとも無様な格好を繰り返す。

うまい蕎麦、そんな固有名詞のような響きはこのような蕎麦を言うんだろう。蕎麦の風味は強すぎず、野暮ったいところなどなく、恬淡なほどにすっきりしたそばとつゆの仕上がりは江戸らしい好みがある。そしてわさびの辛さも同様だ。

ちょっと蕎麦をすする。落語を意識するというミーハーな手前を演じるのは、食の作法を楽しむようで、自分にはちょうどよい安っぽさだろう。