2月8日(土) 広島市中区基町にある中華料理店「品香食坊」でBセットランチを食べる。

広島市中区基町にある中華料理店「品香食坊」でBセットランチを食べる。


昨年末に十数年振りにインフルエンザにかかり、楽しみにしていた劇と落語をぜえぜえ文句を言いながら諦めた。悔しいので、この経験から何かを得なければ元手を無駄にしたことになると考えた結果として、この感冒のおかげで月曜と火曜日にも代休をとれることを学んだ。気を使い、忙しくない木曜日と金曜日、それに隔週の土曜日にあてていたが、年末の最も忙しい時期に休んでも職場は何もなく回っていたので(そう見えるだけで、当然忙しかっただろうが)、いまさらになって自分一人の存在に重きを置きすぎている自分を捨てることができた。


じゃあその経験を活かして今年は連続して代休をとり、5日間くらいの海外旅行へ行こうと考えた。数年前の長期旅行を終えて以来自発的に海外へ行っていないので、国内の焼き物巡りはやめて遠くないアジアにでも行こうと、なぜか中国の成都に強く惹かれた。三国志の歴史と、近隣ともいえる雲南を旅行した思い出がそうさせたのだろう。


ふと思い出したのは、タイからインドへ陸路で向かう経路をとった初めての海外旅行で、真冬の雲南で寒さと未知に凍え怯えながら、どうにかチベタンコンボイの助手席に乗せてもらい、入境許可証なしにチベット自治区を通ってラサへ向かうという行為の中で、どれだけ公安の目に震えて心臓を鼓動させたか。心臓発作でよく死ななかったと肩をなでおろす通過の歓喜と、そのおかげで少しは臓器の肉厚は増したのではとたくましさを手に入れてインドを旅行していた時に、とある日本人旅行者に会い、その人は成都から入境許可証なしにラサへ向かい、途中のバスで公安に見つかって失敗し、成都に帰らされ、2度目も同様に失敗した話を聞いた。自分は公安の着る分厚いジャケットで変装し、日に焼けた黒い顔で無愛想にトラックの助手席に座っていたから大丈夫だったのか、もしくは真冬という季節だろうか、それとも香格里拉という辺境の地からの経路だったからだろうか。とにかく自分は運良く見つからずに済み、もし見つかれば、予算の少ない旅程を大きく変えざろうえない、行きたくもない成都へと向かわされていたのだろうか。それが成都への思い出だ。


身近に旅行代理店のような、頼めばいくらでも安いフライトを見つけ出してくれる強力な伴侶がいるので、安い航空券と日程に目星をつけて行こうと思うも、いかんせん、初めの長期旅行同様に予算の問題が出てくる。時間は確保できるようになったが、今度は旅費のほうが確保できない。ならば日々の暮らしを節約して貯めるべきなのだが、いかんせん、欲が深いからとても節約できない。


そんなわけで、自分でつかみとる宝くじを当てたら行くことに決めて、海外旅行はおろか、国内旅行も控えることに決める。日々の芸術鑑賞を削ってまで行くべきではなく、日々を基本にしながら行かないと意味がないのだ。大切なのは今の暮らしで行っていることだ。


そんなことが少し前にあったから、中華料理を食べたくなったのだろう。近所にある台湾料理店「青葉」は行けば閉まっているので、基町ショッピングセンターのリトルリトルチャイナタウンのような場所でランチをとることにする。


開いていたのが「品香食坊」で、酢豚と春巻きのランチを食べる。店の人と客の話す中国語を耳にしながら、メニュー表を広げ、漢字と写真の食べ物を合致させながら食事をいただく。味の強い酢豚のソースに、肉厚の豚肉と衣を口に入れて、芯のあるピーマン、ニンジン、タマネギを食べていく。


ここでも四川は味わえるのだと、いまさらながら気づいた。いつか成都に行くことはあるだろうか。きっと行くだろう、その時は、良い気分で行っているに違いない。

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