2月2日(日) 広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 冬」を聴く。

広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 冬」を聴く。


指揮:飯守泰次郎

管弦楽:広島交響楽団

ヴァイオリン:大江馨

客演コンサートマスター:山口裕之


ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界より」

アンコール

バッハ:ソナタ第3番よりラルゴ

ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番


耳の慣れる前のウェーバーは、コンサートに徐々に馴染んでいき、耳につくフーガが奏される頃には曲の展開を気にして、最近聴いたベートーヴェンの「レオノーレ序曲第1番」とは随分違うことを実感する。1786年生まれだというこの作曲家の新しさと豊かな楽想には驚かされるも、この器用さがどういう意味をなしているのかと不可解な歴史の取捨を考えてしまう。


ブラームスは、まだ若い大江さんは線の細い見た目通りの印象が拭えず、音と存在もやや大きさを欠いていた。控えめなのかもしれないが、技術の高さと動きの早さはあるも、一音一音にこもる音楽としての表現はあっさりしているようで、厚みと迫力のある音色は垣間見ることができなかった。下地の上にどのような個性を積み上げていくのだろうか。細いピッチャーに筋肉がついて体力がつくように、まだまだ先の演奏家なのだろう。


初めて目にする假屋崎省吾さんは、「ベルサイユのばら」を想起させるきらびやかなジャケットを着ていて、写真よりもずっと人情豊かでユーモアのある方で、抑揚と言葉選びに流れのあるトークに、素敵な人だとすぐに実感できた。


ドヴォルザークは、隣の人の耳に迷惑をかける音量と早さで拍手をするほどだった。巨匠という言葉を聞くが、前々回の音楽の花束で聴いた汐澤安彦さんとはまた異なった情感で、始めから終わりまで一貫して変わらぬ音楽性が通り、一切のゆるみもすきもない集中された演奏が続き、有名だからとプログラムを確認した時点では心から喜べないこの曲の素晴らしさを、研ぎ澄まされた音楽性で持って引き出していた。もうよい歳で、歩く姿にも老いが感じられるも、表現する音楽には呆けたところはまるでない。動画で観たことのあるムラヴィンスキーを思い出させる年齢に、東京でベートーヴェンを振ったブリュッヘンを思い出すも、もっとも感じたのはジョージ・セルのような鋭い弦の響きと均整の取れたリズムにあり、すぐ汽車と結びつけてしまうこの曲に、そんな鈍くさい鉄塊などはどこにも見あたらず、木管楽器にもだらしない叙情的な田舎臭さもなく、脱ぎ捨てていかなければならない歳がそうさせたのかと思うほど、曲の持つ純粋な音楽性が紡がれていて、余計な一切が削がれていた。各声部にスポットをあてて鳴らしたり、分散的に響かせたりするのではなく、まるで俯瞰するような視点は不動として変わらず、あくまで曲のなかでの役割の中で最大限に表現するようにと、冷徹に監視されているのではと思うほど各楽器が綺麗な音を響かせていた。特に弦の響きは美しいの一言にあり、木管は感情的な要素を省いて味気なくならずに澄み、金管はさすがオペラ指揮者とうならせる高らかな音色の変化と余韻があった。そう、この人はオペラ指揮者としての経歴があるのに、聴いたドヴォルザークは劇的というような表面としての騒動ではなく、音楽としてダイナミックにあり、ティンパニーの大きい使い方はとても意味があり、金管の轟きも同様で、それらがあるからこそ切れの良い弦の響きが鮮明に効果を発揮していた。優雅、長閑、鷹揚、そんな言葉とは無縁な冷厳な構造的な指揮は、とにかく素晴らしく美しかった。そしてここまで表現する広響の力量も実に素晴らしい。


古い時代を知っており、歴史的な音楽家とも実際に交流してきた経験だろうか。新しい指揮者の強弱の自由な幅の広い異なった表現があるにしても、純粋な音楽としての表現の形を一つ味わった気がした。本物の巨匠の音楽の貴重な経験となった演奏会は、音楽の花束という名前とはあまりそぐわない、甘さや華やかさとは異なった内奥の音楽だった。

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