1月17日(金) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団 第396回 定期演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団 第396回 定期演奏会」を聴く。


ヴァイオリン&コンサートマスター:フォルクハルト・シュトイデ

ヴィオラ:安保惠麻

コンサートマスター:佐久間聡一


ベートーヴェン:ロマンス第2番 ヘ長調

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調

モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」

アンコール

モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク 第4楽章


前日と異なって大ホールでのヴァイオリンの響きは遠いわけではないが、遠く、昨日のコンサートがいかに良い位置で音楽を鑑賞できたのかわかった。管弦楽でのロマンスは、昨日のピアノ版ではあれほど太い存在感で画面も空間も占めていた音色は印象が少し離れたようで、オーケストラとのシンフォニーをより感じるものだった。


協奏曲では、楽しむ、そんな印象を第一に持った愉快で親和力のある演奏だった。ヴィオラの安保さんと団員の関係に、頼りがいのあるシュトイデさんも加わり、舞台の中心を境に弦の対比が戯れる心を持って仲良く掛け合い、全体のオーケストレーションでは指揮者のいない中でのより自由で統一感のある響きが素晴らしかった。見守る、そんな仲間意識が古いサロンでの演奏会でもあっただろうと思い起こさせて、中心にいるソリスト二人の見事な調和が導入部の緊張を忘れさせて、ホール全体に統一する綺麗なハーモニーが生まれていた。曲そのものも素晴らしく良いが、定期演奏会というかしこまった形式ではなく、先生のいない臨時授業で各自が思い思いに楽しむような和やかさがあった。


そして交響曲がこれまた素晴らしく良く、伝統ある一流の楽団のコンサートマスターが一人加わるだけで、これほどまで管弦楽の色を変えてしまうのかと、その存在の大きさに敬服してしまった。前回の広響との演奏会で聴いた時も弦の存在が映えていたのは覚えているものの、フレージングのなかに潜んでいる細かいニュアンスがこれほどまでにあるのかと、また表現されるのかと、一滴が染めるコップの水の色を喚起させられた。大きく素早い演奏によってくっきり聴こえるシュトイデさんの音色に、オーケストラは呼吸を合わせて同化していく。第4楽章で管楽器の存在は上がってきたが、やはり弦が一定して良く、言葉では表せない抑揚やアクセント、フレージングなどに、短絡的にウィーンフィルのエッセンスを感じてしまった。ほとんど知らないくせにだ。そして何よりもモーツァルトのこの曲の偉大さを今更に思い知った。以前は40番などの短調を好んでいたが、この曲の構成と無駄のなさ、複雑だが簡潔に膨らむ展開の豊かさ、それでいて輝かしいスケールの大きさは恐るべきもので、フーガ好きの自分は第4楽章の構造に他の作曲家にはない音楽の一つの真理を目の当たりにするようだった。ルネサンスの芸術家によるマニエリスムの天上の筋肉が、重力から逃れた霊的な宇宙の階調を持って軽快に紡いでいくようで、一言でいえば神の芸術を感じるものだった。


アンコールはさっとウィーンを流し、余裕綽々とシュトイデさんは舞台を去っていった。自立性を持った演奏会は、優れて美しく、それでいて楽しい演奏会だった。来季の広響プログラムではシュトイデさんの出演がなかったのが、本当に悲しい。

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