12月31日(火) 江戸川区船堀にあるヒンドゥー教寺院「イスコン ニューガヤ ジャパン」を訪れる。

江戸川区船堀にあるヒンドゥー教寺院「イスコン ニューガヤ ジャパン」を訪れる。


シヴァ神やガネーシャ神の名は知っているが、ヴェーダはおろか、ラーマーヤナも知らない自分からすると、ヒンドゥ教は複雑な印象しかない。日本にあるヒンドゥ教寺院を訪れるにしても、これといった想像を持たずに行ったので、カレー屋と同じ一戸建ての建物の扉を前にしても、昨日のシク教寺院を踏まえて、マンションの一室ではないというのが正直な第一印象だ。


中に入ると、年輩の日本人男性が色々と説明をしてくれる。


祭壇の中央にクリシュナ神と恋人のラーダーが祀られていて、右はプリーのジャガンナート寺院に本尊がある神様で、左から兄のバララーマ、妹のスバドラー、そしてジャガンナートが並んでいる。


ちなみに10年以上前だが、プリーには日本人だけしか泊まることのできない有名な沈没宿があり、この閉鎖された一種のリゾート地は快適なサービスによって外に出ずとも一日を過ごすことができて、ちょっと外に出て近くの海岸へ向かえば、夏の江ノ島のような喧騒がビーチに広がり、野糞も多く、クリケットをするインドの子供たちがいたるところにいるカオスな場所だった。そんな思い出を喚起されれば、その街で入れなかった寺院こそ、聖地であるジャガンナート寺院だと今さら昔の経験がリンクする。


このクリシュナとラーダー、それにヴィシュヌ神の化身だという神様は、着替えに、オイルマッサージ、食事、礼拝、昼寝もあるらしく、動いていないのに文楽のように生きた実感を持っているのは、この寺院にいる人達の鍛錬ともいうべき日々の繰り返しがあり、その結果として生け花のような神秘的な小世界が表れている。


教典であるヴェーダについてや、ハヌマーンと孫悟空、桃太郎の関連性等を教えてもらう。仏教はそもそもヒンドゥ教の一派としてあり、中国から多くの要素を持ち運んだ空海の密教の根源はインドにあるそうで、ブッダは輪廻を説いておらず、形式よりも実生活と一度きりの人生を如何に生きるかに重きが置かれていたが、時代を重ねることで、ヒンドゥ教の教えが仏教の教えとして世間に認知されてしまった、などの話を聞く。


端的に説明されたが、なにせ存在する分量が巨大であり、その解釈も様々にあるらしく思えるから、大樹の梢の小さな葉の一枚も触った実感は持てなかった。とにかく感じたことは、天文学的な数字と尺の長さの世界観のなかで、事細かな決まりが毛細血管のように入り組んでいるようで、ヒンドゥ教への印象はインドという国そのものだった。混沌から取り出して形作るにしても大ざっぱな枠ごとそのまま物質化されたようで、瞑想の中で無になることは難しいから、神に定めて瞑想するという話を聞きながら、何百巻もあるというヴェーダそのものがいかに考えずにはいられない人間の存在を表しているか、インドの物量と限りなく豊かな多様性を見るようだった。


達するところは一つであっても、その過程と手段は無数にあるようだ。ヨーガはあくまで宗教的行法であり、仏教の座禅もヨーガであり、健康と浄化はあくまで副産物としての結果であって、それを目的としてするものではないらしい。


外に出る前に聞いたのは、元旦はこの寺院にインド人が多く集まるらしく、インドにはそんな慣習はないらしいが、自然と日本人の慣例に合わせるようになっているようだ。2日は少なく、3日は平穏に戻らしい。とくにネパール人は元旦に多いそうだ。


扉を開けたところに杵と臼があり、元旦は餅つきをするそうだ。カレーと合わせるのか訊くと、どうやらきな粉とあんこらしい。日本とインドの文化を融合せずに、あくまで日本に倣ってもらうようだ。


自分のような知らない者はヒンドゥ教としてついつい一括にしてしまうが、仏教もそれぞれ宗派があるように各々は異なっている。ハレークリシュナと唱えるこの団体が有名な音楽家や実業家と結びついて、ヒッピームーブメントやプロダクトデザインなどにどのような影響を与えたか。そんなことを少しでも想像できるから、ここへ来たかいはあったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る