11月4日(月) 広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 秋」を聴く。

広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 秋」を聴く。


指揮:秋山和慶

管弦楽:広島交響楽団

ヴァイオリン:金川真弓

コンサートミストレス:蔵川瑠美


ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調

アンコール

パガニーニ:カプリス第24番

チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ


ウェーバーの曲を聴いていて、今回も秋山さんの指揮は老いを感じさせないエネルギーがあるように思えた。聴き慣れていない曲なので他にどんなテンポでどのような表現があるのか例を知らないが、気分の湧く上がり調子で演奏されて、ウィーンらしい旋律のなかでビールのジョッキグラスでもぶつけ合って飲みたくなるような陽気な感じが目立っていた。ただそれだけではなく、歌劇の内容は解説でしか知らなくとも、物語が凝縮されたような雰囲気がこの序曲に詰め込まれているような展開も感じられた。


演奏会で割合接することの多い有名な曲でも、自分の好みの曲ならば、またか、と思わずに毎度のように楽しめるもので、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は「白鳥の湖」や「エフゲニー・オネーギン」と似通った沈鬱で青白い曲調が感じられた。


驚いたのがソリストの金川さんのヴァイオリンで、あまり音の響くイメージのないフェニックスホールで、前から5列目の席だとしても、音がやけに鳴っていた。ホールに響くのではなく、楽器そのものからはっきりした存在感のある音が生まれていて、スケールの大きさをまず感じた。奇抜な演奏でも音色でもなく、確かな質の録音で聴いたことのある正統な表現だとしても、若い演奏家を聴いてたびたび浮かぶ感想として、非常に高い技術を持っている。風格さえある演奏を前にして、160キロの球を投げるピッチャーや、9秒台で駆け抜ける短距離走者が頭に浮かび、今の時代は身体も技術も発達して、これくらいの演奏家は珍しくないのかと考えてしまった。それでも、2019年チャイコフスキー国際コンクール第4位を代表とする様々なコンクールの実績を実証するように、この人は優れた演奏家で、チェロを含めた最近聴いたソリストの中でも抜群に音が出ていて、表現の幅もとても悪くない。とにかく腕っ節のよい感じが頼もしい。素早いパッセージでもしっかりと音が存在するので、縮こまった聴こえにくさはなく、オーケストラに埋もれることなく素晴らしいユニゾンが奏でられることもあった。アンコールのパガニーニも貫禄の演奏を披露していたので、チャイコフスキー国際コンクールの時は調子が良くなかったのではないかと思うほどだった。しかし、高い実力が多くいる世代なのか。


前回の「広響名曲コンサート 春」で演奏されたドヴォルザークの7番なら頻繁に演奏会で聴いてもいっこうにかまわないが、どうも8番となるとそれほど期待で胸が膨らむわけではない。甘美なメロディーがあるも、そればかりが印象に残っていて、他の良い点が思い浮かばない。演奏会以外では聴くことがなく、ここ数年は耳にしていない。


久しぶりに接した印象としては、鉄道好きと記事で目にしたことのある秋山さんと、同じ鉄道好きのドヴォルザークとの相性の良さが第1楽章で聴こえてきた。高らかな汽笛らしい大きな金管楽器の響きに、列車の運行のように進むテンポとオーケストレーションの高まりは、まさしく機械的なリズムを含んだ汽車の姿だった。意気揚々と発車して進行していく快活な調子は、背後の金管と打楽器が特に目立って鳴らされていた印象があった。


ただその第1楽章の期待に膨らむ出発のあとは、ある程度時間が経つと車窓と列車の雰囲気に慣れて穏やかな眠気がやってくるように、第2楽章からぼんやりとしてしまった。各パートが明確に鳴らされて、ゆったりと進むのが心地良いので、お腹が空いた睡眠不足の体を沈み込ませてしまい、夢の入り口と夕食場所の雑念の中で音楽を聴いてしまった。そのせいか木管楽器の際立った音が消失する意識の中で入り交じり、第3楽章までは緩やかなテンポが冗長に聴こえてしまい、少しばかり丁寧すぎるパートの鳴らしかたのように思ってしまう。これは体調管理の悪さによる感性の埋没で、もっと昼ご飯を食べて、前日の睡眠が早かったなら、このテンポが表現する音を一つ一つじっくり味わえただろうに。第4楽章では息を吹き返し、派手に鳴らされる金管の大きな音を鮮明に耳でとらえて、盛り上がって進む豪快なオーケストラを確かに味わうことができた。


予想だにしない素晴らしいヴァイオリン奏者を聴けた喜びと、広響と聴衆に深く親しまれている秋山さんの指揮を再確認できた演奏会だった。昔はどのような演奏だったのだろうかとふと考え、もっと若い頃に指揮したドヴォルザークが気になった。

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