11月6日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでジョルジュ・フランジュ監督の「殺人者にスポットライト」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでジョルジュ・フランジュ監督の「殺人者にスポットライト」を観る。


1961年 フランス 93分 モノクロ デジタル 


監督:ジョルジュ・フランジュ

脚本:トマ・ナルスジャック、ピエール・ボワロー、ジョルジュ・フランジュ、ロベール・トーマ

撮影:マルセル・フラドゥタル

美術:ロジェ・ブランンクール

音楽:モーリス・ジャール

出演:ジャン・ルイ・トランティニャン、パスカル・オードレ、マリアンネ・コッホ、ダニー・サヴァル、ジャン・バビレ、ジョルジュ・ローラン、ジェラール・ビュール、セルジュ・マルカン、リュシアン・ランブール 、フィリップ・ルロワ


エディット・スコブにすっかり虜になってしまった「顔のない眼」と同じジョルジュ・フランジュ監督の作品なので、観る前から期待していた。タイトルロールにこの作品でもモーリス・ジャールが音楽を担当しているとあり、プロコフィエフのバレエ音楽「シンデレラ」を想起させる旋律が流れていて、この作品も音楽が重要な要素になるのかと予感した。


それは間違っていないのだが、「顔のない眼」にあった登場人物に寄り添うような役割ではなく、この映画を支配する重要な存在として音楽は登場していた。タイトルロールで流れていた和音と旋律に時を感じさせられて、途中も「時をかける少女」や「ふたりのイーダ」が思い出されるのだが、物語が進んでいくと、この作品を包む雰囲気として時は重要な要因となっているのだと頷けた。この物語を生み出す伯爵の身を隠した死、遺産相続人達、祖先の昔話、その話と城館を組み合わせた光と音の劇、祖先と現在を組み合わる演出は「万延元年のフットボール」や「スタフ王の野蛮な狩り」も思い出させた。小道具である揺れる椅子、揺れる振り子の掛け時計も時を感じさせる。


そんな古い城館に遺産相続目当ての人間の浅ましさが交じえられ、光と音の劇の為の装置が暗喩として登場して城館を侵食する。今の時代では古いと見える音響と照明装置だが、音と光を生み出すという基本は今と変わらず、50年以上昔の映画であるのに、行われることは今と発想がまったく変わっていない。知事を含めたお偉方を集めての夜の城館での演出では、祖先の物語は照明と音楽で表され、モーリス・ジャールの音楽がここで雰囲気を盛り上げ、モノローグは情景を浮かばせ、馬の音や階段を登る効果音に、城館の部屋の明かりが見えない人物の移動を見せ、それらをカメラの移動が確実に捉えて伝える。


物語の筋や構成を踏まえればミステリーとなり、犯人を探して隠れた遺体を見つける話になるのだが、「顔のない眼」と同様に、そんなことはどうだってよい。次々と死んでいく人間のあっけなさと、その人物たちの葬儀はどうしたのかと考えるが、これほど無粋なこともないだろう。そんな掃除の手抜かりなさを探すような埃を探す指のなぞりはいらない、極めて優れた映像美と格調高くも親しみある多彩な音楽との融合こそ、この作品の芸術的な魅力だろう。


何度も疾駆する馬、湖に浮かぶような城館のロングショットに祖先の話を合わせたセリフと静かなズーム、人物の存在を知らせる点滅ランプの不気味、襲いかかるミミズク、などなどと挙げながら、モノクロ画面で森の中を写した銀河のような木漏れ日、湖畔でなごむ相続人達に近づいていくカメラに止まった瞬間から始まる生の舞台のような構造的な会話劇、逃げていく犯人の足を撃つ前景と後景の調和なども、思い出してしまう。


残念ながらエディット・スコブのような強烈な媚薬の存在は見当たらなかったものの、モーリス・ジャールが気の利いた演出家としてあり、これほど音楽と映像が一体となった作品はそうそうないだろう。日本の映画でも黛敏郎さんや伊福部昭さんの音楽を聞くが、これほどすっきりしていない。明確な効果を持った音楽は品が良く、とにかく無駄もなく、有名な作曲家のエッセンスを借りていても、個性的な叙情性は特別な味わいを持っている。キャッチーな旋律に惹かれがちな自分としては、表面にある扇情性についつい取り憑かれてしまう。


極端に言えば、物語は捨てても構わないと思えるほど、映像と音楽の融合した特別な雰囲気を持った作品だ。ちなみに城館を使った光と音の演出は、数年前にエジプトのピラミッドの前の宿で数泊した時に、毎日聞かされたのを思い出させた。半世紀前のことが今のピラミッドではカラーで行われている。それも時だ。テクノロジーの発達したプロジェクションマッピングを見下せるほど、見ごたえのある素晴らしい城館の演出は、とにかく必見ものだ。

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