10月26日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでジャック・ベッケル監督の「幸福の設計」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでジャック・ベッケル監督の「幸福の設計」を観る。


1947年 フランス 89分 モノクロ デジタル


監督:ジャック・ベッケル

脚本:ジャック・ベッケル 、モーリス・グリッフ 、フランソワーズ・ジルー

撮影:ピエール・モンタゼル

音楽:ジャン・ジャック・グリュネンワルド

出演:ロジェ・ビゴー、クレール・マフェイ、ノエル・ロクヴェール、アネット・ポアーヴル、ポーレット・ジャン、ジャック・メイラン、ピエール・ツラボー


オープニングでの製本工場のモンタージュの早さが目に付いた。考えさせるように一カットを置くのではなく、素早く繋いでカメラも動くので、忙しい工員の日常のリズムかと思った。


続いてシャンゼリゼ通りのどこかの店内に場所は変わり、証明写真撮影の業務に就く女性と同僚のやりとりが描かれる。ここで本の貸し借りが行われることで、それとなく先ほどの男性との関係は暗示され、続いて宝くじ売場の女性も登場すると、この物語の重要な布石はほとんど揃うことになる。


昨日の映画のモノローグのような輪郭をもった丁寧なフランス語ではなく会話としての早い口調と、モノトーン画面の色に、一度しか観たことのないスクリューボール・コメディを思い出すも、あれほど慌ただしい展開にはならない。もっと落ちつているも、日本人ではこれほど表情を動かせないと思わせる店のオーナーが図々しく現れ、呑気だが動きの早いマイペースの切符売りの女性が目を見開いたまま喋るのを観ると、コメディらしい展開を想起してしまう。


登場人物と小道具が無駄なく配置され、それぞれが各場面で意味を持って連関して物語を構築しているので、計算された構成がわかりやすく展開されるも、やや味気なさとわざとらしさを感じる点もないことはない。当選した宝くじを忘れずに本のページにしおりとして挟み、あとあと知人がその本を借りに来る場面では、率直な演出だと鵜呑みにしてしまいそうになるも、実際は二重の仕掛けが潜んでいるので、ラストで輪をかけた結末を登場させることになる。


そのわざとらしさが笑いを起こす格闘の場面に、野次馬住民達の顔芸のようなズームアップなどが挟まれるのは昔らしいコメディ性があって、今ではもはや使われないであろう手法に骨董品の味わいがある。


ハッピーエンドで終わる結末のシーンは軽々しくてあれくらいがよいのだろう。全編に夫婦愛が損なわれないなかで、宝くじを紛失して徘徊する夫を探し、バーで見つけ、過失を責めるのではなく、一杯おごってと言い、夕飯にとタラを買ってジャガイモを茹でている最中だと言い残して家に戻る妻に、喚くばかりでなく、男らしささえ感じる慈愛のゆとりと、粋な姿の大人の振る舞いを見たのが、とても爽やかだった。


昔らしい美しい顔立ちの女優による、夫婦の愛に満ちた素敵な映画だった。

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