8月29日(木) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ中ホールで「ヨーロッパ企画第39回公演「ギョエー! 旧校舎の77不思議」」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ中ホールで「ヨーロッパ企画第39回公演『ギョエー! 旧校舎の77不思議』」を観る。


作・演出:上田誠

音楽:青木康則

出演(ヨーロッパ企画):石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、本多力

客演:祷キララ、金丸慎太郎、亀島一徳、日下七海、納谷真大


前回公演のおぼろげな好印象と、数ヶ月前のプロモーション参加による物足りなさを持って今回の舞台を観た。何も情報を持たないまま舞台に接するのと異なり、今回は事前の基礎知識と経験がある。それに加えて一年間の少なくない観劇によって変化した自分の目がどう感じるか楽しみだった。


結果として、極めて楽しい観劇となった。1階4列目の16番となると、大ホールでは左端となり、早めに買った割にあまりよい席ではないと思いこんでいたが、中ホールとなると決して悪くない場所だった。前回は1階の後方の座席だったので役者さんの表情はほとんど見分けることはできなかったが、今回は明瞭に見えたので、目を主として、頬や眉の動きも細かく変化していた。コメディだけあって仕組まれた動作は目につきやすいのだろうが、わかりやすい仕草も単に誇張されておらず、どれもがうまく隙間を突くようなおかしさがある。それは台詞と掛け合いにもあり、少しばかり良い間合いがあるのではなく、全編を通して観客を飽きさせない、かといってくどすぎない妙味が通用している。


率直に思い出したのが、宮崎駿監督や安野光雅さんで、フィールドは異なるにしても芸術性と娯楽性のバランスが優れていて、どちらかを好む人にも納得させる作品の出来映えとなっている。前回の舞台も思い出され、ヨーロッパ企画も、基本となる演技力があり、早過ぎずにつながれる演技のリズムに貫かれて、自在にベクトルを変えて笑いを引き起こす優れた切り替えと、そのまま大衆的な集団による笑いへと膨らむ推進力がある。


娯楽的な要素を抜かしても、演出の巧みさと小道具の使い方が際立っている。77不思議を一つ一つ現象を通して数えられていくのだが、はたして77も盛り込めるのかと思いきや、次々と開かれて、無理に詰め込んだ具合がほとんど見あたらないひねりのきいた不思議ばかりで、常套的な怪奇現象も演出により光り、思いもしない不思議に何度も笑わされる。自分の背後にいた女性は、突然倒れた椅子に大声を発したのを初めとして、その後もお化け屋敷のようなただならぬ雰囲気のなかで発生する出来事をそのまま反応するように声を出していた。開場前に、おしゃべり、独り言などを禁止するアナウンスはあったが、叫び声については触れていなかった。そもそも観劇で悲鳴をあげるのを聞いたのは初めてだ。それほど演出が優れていた証拠だろう。


その演出を活かすのが、地の力を持った粒揃いの役者さん達だろう。昔、日本語ラップで「nitro microphone underground」が有名になった時に、7人いるラッパー達それぞれの個性がかぶらず、いわゆるキュラ立ちしていたと何かの記事で読んだ曖昧な記憶がある。それと似たように、少なくない人数で組み交わされる舞台上は、一人一人が主だった個性を持っていて、気分の良い暑苦しさを覚えるほどだった。


この役者さん達を観ていて、無意味に思えたプロモーションが布石となり、舞台をより一層見応えあるものとして自分に映るのがはっきり感じられた。石田さん、酒井さん、上田さんがその時壇上でトークしていたが、笑いへと結びつける狡猾でありながら自然な姿勢こそがヨーロッパ企画の根本にあり、スクリーンで観たショートフィルムとくだらないと思われたテレビ番組こそが、味のある役者さんたちのプレゼンテーションとなり、とても好ましく一人一人を近づけてくれたように思えた。


そして何より、この舞台の作・演出の上田誠さんという人物を間近に見ることができたのが、あのプロモーションの最も大きな成果だった。舞台を作り上げるまでの過程を文章で読み、その人柄を少しでも感じたことがあったからこそ、ヨーロッパ企画のメンバーと客演さん達の稽古の過程を想像する楽しみが得られた。芝居は、メンバーあってこその演出であり、アドリブから抽出されたような鋭い切り返しの展開は、あの一体感が生み出しているのだろう。


そんなわけで2度目の観劇となるヨーロッパ企画の公演は、絶対の価値を自分に植え込み、今後も必ず足を運ぶことが決定づけられた。あれほどつまらなく思えたプロモーションでの映像が今となってはファンになりかねない効果を発揮している。これがこの劇団の魅力なのだろう。


そして、それぞれの客演さん達も見応えがあり、特にモノローグも兼ねていた祷キララさんの見目の良さと、しとやかな演技は特別な要素となっていた。綺麗というのは素晴らしい才能だ。まだ若いから、さらに磨かれて欲しい。


楽しい芝居からふと、昔のテレビ番組を思い出し、全盛期のドリフターズを知っている人が観たら、ヨーロッパ企画をどう思うのだろうか。脈絡はないが、素朴な疑問が浮かんできた。

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