7月11日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでトマス・バルトン=ハンフレイス監督の「野生のルーマニア」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでトマス・バルトン=ハンフレイス監督の「野生のルーマニア」を観る。


2018年 ルーマニア、英国 90分 カラー Blu-ray ルーマニア語(日本語字幕)


監督:トマス・バルトン=ハンフレイス


これはドキュメンタリー映画で、学生の時に夜更かしをして、何かを見たいわけでもなくテレビをつけてチャンネルを回し、ひっそりと感動したNHKのギアナ高地の番組を思い出させる作品だった。


カルパチア山脈が湾曲してルーマニアの国土を貫き、山があればその大きさに比例して川があるようにドナウが流れて東の黒海へと注がれる。多様に富んだ森やデルタの湿地と、アプセニ山脈を舞台に、四季の移り変わりと自然の営みを、静かで、いくぶん詩情も交えたナレーションで語られる。


今さらになって自然を題材にしたドキュメンタリー映像に驚くのは、その一つ一つのカットを得るまでの途方もない努力と探求心で、冬眠後のヒグマや、狼に狙われて必死に戦う猪、水辺のファイヤーサラマンダーの黄色と黒の体表、老人のようなふてぶてしい顔の水中の鯉、野生化して体毛とたてがみの小汚いたくましい馬など、多くの生物が実に多彩な表情で映されていて、理性ない動物だから本能と心のあることが、蟻の一匹やカゲロウの幼生の動きにも見事に映しだされている。


どの国でも、自国の自然にスポットをあてれば多様な姿があることを垣間見させてくれる。必要なのは大きくも小さくも視点で、湿気のたまった押入の奥にも、家の中にある鉢植えの土壌にも、近所の公園を舞台とした子供達の戯れにも、職場でも、無限に生態系は存在する。


以前、冬のルーマニアの首都を二日間訪れたことがあり、腕よりも長いつららが軒に垂れる雪と寒さの景色で、色の記憶はないのだが、この国はこれほどの自然があると、今回の映像の魅力に惹かれた。


そういえば、列車に乗ってブルガリアへ向かい、国境のドナウ川に近づいた車窓で、雪原しかない広い景色の中を、群をなした犬のような生物が雪煙をあげて列車と並んで走る姿があり、野良犬の多い国だから、それかと思っていたが、今日の映像を観て、もしかしたら狼だったかもしれない。


自分もただの生物の一つとして、命ある存在の多様性から力をもらった気がした。

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