音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集
6月14日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「Hiroshoima Happy New Ear27 次世代の作曲家たちⅥ」を聴く。
6月14日(金) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「Hiroshoima Happy New Ear27 次世代の作曲家たちⅥ」を聴く。
広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザオーケストラ等練習場で「Hiroshoima Happy New Ear27 次世代の作曲家たちⅥ」を聴く。
音楽監督・お話:細川俊夫
指揮:石川星太郎
委嘱作曲家:神山奈々
委嘱作曲家:小出稚子
ゲスト作曲家:フェデリコ・ガルデッラ
能:青木涼子
フルート:森川公美
演奏:広島交響楽団
神山奈々:きっと、またここで会えますように
フェデリコ・ガルデッラ:Two Souls
小出稚子:Oyster Lullaby
細川俊夫:旅Ⅴ
「Hiroshoima Happy New Ear」シリーズは今回で27回目で、自分は3回目になり、「次世代の作曲家たち」は6回目で、自分は初めて、前回に覚えた感想同様に、過去のシリーズを知らないことが悔しく、聴いてきた人を羨ましく思うのと同時に、このような演奏会があることを嬉しくなる。
普段は現代音楽を聴かず、年に1度広島にやって来る文楽を観たり、年に数度観る能楽のように慣れておらず、映画のように毎週接しているのなら、今日の音楽をもっと細かに味わうことができるのだろう。分析的に細部に着目できるのはおもしろいだろうが、そうできないなら伝統芸能を観るように新鮮な体感を楽しむ他にない。
「ヒロシマ」をテーマにした作品を若い二人の女性作曲家に委嘱したというが、歳は近くも、アプローチは異なっている。似た作風ならここに並んで呼ばれないから当然だが、二人の曲を聴き比べる形だからこそ個性は浮かび上がり、それにフェデリコ・ガルデッラさんと細川俊夫さんも並ぶと、知らない人間にとって現代音楽という枠は、不気味で自然に理解できない変わった音楽に思えるが、幅広さと深さを持った多様と豊潤のうちにある興味深い音楽表現の追求にあることを知れる。
印象だけを述べると、神山さんの曲は、弦の奏法から繊毛が飛び交うようで、そこに原初生物のつるっとした動きを覚え、素麺を口につけて一気に吸い込むようなリズムが繰り返され、それに聴き慣れない破裂するような音や振動があり、細川俊夫さんを主に聴いてきたカリグラフィなどのイメージとは異なる、ミジンコのように太くないイトミミズのDNAの鋭い連動が繰り返されて、次第に音圧は増し、それが何か生命の構築のようなオーケストレーションとなって膨らんでいた。本人が近くに座っていて、前髪のぱつんとした、ゆったりしたドレスの可愛らしい人なのに、なんて完成度の高い曲を作るものだと感心した。
フェデリコさんは、青木さんがソリストのように指揮台の近くに立ち、暗澹とした音楽の中で能の曲「錦木」が謡われる。一体するというよりも、影の移ろいを見せるような音楽の効果に、謡は伝統的な能の曲とは異なった立ち位置で聴こえてくるが、昆虫のように機能美が完成された能楽の図太さは変わっていない。あくまで能はそこにあり、新たな試みの中でも形はそのままで、澄まし顔のように頑然としている。舞もあり、演奏される中での動きは、能楽舞台で観るのと異なるも、狭くない空間さえあればと、水平に動き、足を踏む。細川俊夫さんの曲が先行してイメージを作っているのだろうが、伝統芸能がどうしてこうも現代音楽と諧調がとれているのだろうかと不思議になるも、それはたまたまというよりも、昔を掘り起こしつつそれを巧みに取り入れているからだろう。能楽のほうは知らん顔で、それを取り囲む音楽が新たに再構築している。それは古い遺物を上手に利用して新しい素材とデザインで完成された建築のような発想だろうか。
小出さんは、着想がとてもおもしろく、瀬戸内に沈む牡蠣に様々な解釈をつけての曲で、先に聴いた二人よりも馴染みやすく、ドビュッシーの水の音色も感じられるが、ガムランのような自然の響きもあり、オーケストレーションがとても素晴らしい。演奏前の曲紹介で、自虐的にというよりも、わかりやすい言葉で、眠くなる曲だと本人は語っていたが、たしかに目は閉じたくなるも、水の中の牡蠣の気分を引き起こすその眠りは様々なニュアンスがある。呼吸、揺らぎ、移ろい、波、それが一つではなく、様々な呼吸で、ぷくぷくとした泡の音、深呼吸、夢想、その膨らみなど、なんとまあ豊かに表現しているのだろう。牡蠣殻の音や、牡蠣を引き上げる音も珍しく、風の音などもどのように出しているのか気になることばかりだった。
細川さんは、さすがに構成力とその表現力の強さと底の深さが豊かで、圧巻の演奏だった。特にフルートの森川さんの熱演が素晴らしく、人間をモチーフとしているソリストの立場は、まさに憤怒があり、苦闘するようだった。
アフタートークも和やかで、もっともっと話を聴きたいのは前回、前々回と同じだ。発見の多さは他の演奏会と異なり、常に純粋な気持ちで頭と感性を刺激してくれるこの貴重なシリーズの恩恵を感じた。
そして、広島交響楽団のみなさんの演奏が良く、登場するだけでほっとするほど一方的に親しんでいるのだと実感した。石川星太郎さんも、アフタートークで曲を初演する経緯の面白さを聞いたあとでは、緊張感のある曲ばかりなのに伸び伸びと指揮していた姿が蘇り、この姿勢が縮こまらない豊かな音を生み出していたのかと符合をつけてしまった。
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