6月12日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」を観る。
広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」を観る。
1977年(昭和52年) 松竹 108分 カラー 35mm
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
撮影:高羽哲夫
音楽:佐藤優
出演:高倉健、倍賞千恵子、桃井かおり、武田鉄矢、渥美清
冒頭はこの有名な映画の、ショットやカットの編集が平凡に見えた。レイバンらしいサングラスをかけた武田鉄矢さんが駅の近くに車を停めてから、庶民的な町の視点が繋がれていき、高倉健さんが登場しても、鋭い構図や幾何学的な美しさはなく、一度しか観たことのない寅さんによる成心だろうか、庶民的な生温さを感じた。
それからは太鼓持ちらしい役の武田鉄矢さんが笑いを誘い、最初ははにかみ、打ち解けずにいた桃井かおりさんが徐々にほぐれてきて、そこにしかめっ面があまりにも染みきった高倉健さんも加わり、北海道の自然風景に重きを置いたロードムービーは続くが、中盤に差し掛かって展開は一変する。回想が舞台となり、笑いよりも悲哀が全面に出て、しがない人生の一片を、ひょんなことで真面目に生きようとする人生を変えてしまった出来事が語られる。このあたりからショットは神経が張り詰めてきて、雪景色を歩く高倉健さんと倍賞千恵子さんの姿は叙情と慎ましさにあり、寒い土地だからこその肌合いの温度が伝わってくる。ここは誰の琴線にも触れる真情のショットの連続にあり、二人の演技の表情と間合いが素晴らしい。特に商店のレジスターでの会話時に見せる賠償さんの表情と目は、奥さんがいるかを客の高倉健さんに尋ね、いないことを知った時の下向きの目線は、作業の為にしっかり手の動きを見ているようで、心で違う事を観ていることがわかりやすく表現されている。
有名な映画だけあって、とても良い映画だった。あれだけ男らしそうにしていたからこその高倉健さんの後半の臆病な姿に、次第に厚かましさと率直な人情を見せて心を開いていく桃井かおりさんに、女々しさと軽はずみな調子に誠実さが加わっていく武田鉄矢さんに、芯のある女性を持ち前の品格で演じる倍賞千恵子さん、それに北海道の美しい風景に、奇を衒わない温かみがあるも肝心なところはぐっと観衆を引き寄せるショットとカットの編集により、物語は平凡なのに、こうも心を揺らすのは、山田洋次監督の上手さなのだろう。
初めて観た若い時の武田鉄矢さんと桃井かおりさんがみずみずしい。今はあんなに貫禄があるのに。その点、高倉健さんと倍賞千恵子さんは一昔前の人間を演じる風格を出していた。
男臭い高倉健さんのファンが沢山いるのもうなずける。黄色いハンカチを見て、苦み渋った表情の皺がたまらない。
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