4月10日(水) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで野村芳太郎の「伊豆の踊子」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで野村芳太郎の「伊豆の踊子」を観る。


1954年(昭和29年) 松竹(大船) 98分 白黒 16mm

監督:野村芳太郎

出演:美空ひばり、石浜朗、片山明彦、雪代敬子


冒頭からみかんの木が映し出され、白黒に丸いみかんが実っている。川端康成の「伊豆の踊子」の内容はよく覚えていないが、この映像で自分の記憶からの伊豆へとつなげられる。静岡ではないが、谷の斜面に植えられたみかん畑の夕刻を歩いた湯河原に、神奈川の端ではあるが、東海への玄関口らしい所としてある小田原よりも先の、すでに静岡らしい雰囲気をまとっている場所が思いだされた。


やや硬質な演技にみえる美空ひばりだが、小さく若い少女のようなのちのちの昭和の偉人は、笑顔がとびきり素敵だ。一緒に旅する他の女性のほうが目鼻立ちが美しいのに、石浜朗演じる書生は、どうもあまり器量が良いといえない不器用な女の子に惹かれる。


全編を通して音楽と歌が頻繁に流れ、いろいろな距離のショットで歩く一行の様が写されて、銀幕旅情の東海編があるならば、必ず選ばれるであろう麗らかな景色が連続する。登場人物も、額がやけに広がっているひょっとこのような親爺や、皺で表情の変化が見分けられない杖をつく老婆など、いかにも地方で生活していそうな貴重で素朴な人物が多く登場する。


現代の学生と異なり、一目置かれ、住民から丁寧に扱われる書生という肩書きは、まるで軍人さんのような威光があるらしく、この人物が東京から来たということで、光彩はより輝くらしい。このあたりの時代背景は、教科書に載るような小説から知ることができる。


今と異なり、現代機器のない素朴な旅だからこそ……、などと思うが、今と昔では旅行の形は当然違うも、人や物との出会いと別れは変わらない。ただ、骨董品を見るように、この映画のようなもう存在しない旅のありかたに憧憬を抱かずにはいられない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る