2月11日(月) 広島市西区草津南にある109シネマズ広島で「METライブビューイング ヴェルディの『椿姫』」を観る。

広島市西区草津南にある109シネマズ広島で「METライブビューイング ヴェルディの『椿姫』」を観る。


指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

演出:マイケル・メイヤー

出演:ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)、フアン・ディエゴ・フローレス(テノール)、クイン・ケルシー(バリトン)


どこかの図書館で「椿姫」のDVDを借りて観たのが7,8年前で、とても有名なオペラということで期待していたら、物語の展開が早いというよりも、ずいぶんと削除されていて、重要な場面だけを見せる程度がひどくつまらなく感じた。デュマ・フィスの小説内容にこだわったのと、パソコンとヘッドホンというたるんだ環境もあったのだろうが、あまりにも自分がオペラを知らず、未熟だった。


これほど変わるのだろうかと思えるほど感じ方が変わるから、クラシック音楽は面白い。プッチーニの「トゥーランドット」や「蝶々夫人」のほうがわかりやすくて、当時は好意的に観れて、「アイーダ」や「椿姫」は退屈だった。ところが、METライブビューイングで観たつまらないと思っていた作品は、こんなに素晴らしかったのかと今はその真価を少しは知ることができた。


パソコンの画面と、映画館のスクリーンでは差がある。さらに豪華絢爛を極めたセットのメトロポリタン歌劇場では、エンターテイメント性も強く、視覚の効果も最大限にある。楽しめて当然といえよう。


ティファニーを想起させるブルーの円形闘技場のようなアーチの装置は全幕変わらず舞台上にあり、金の蔦で彩られてエルミタージュのような贅を見せたり、蔦が垂れて象徴的な雰囲気の荘厳な空間を見せたりする。ベッド、ピアノ、机の小道具も、クラシックでありながら今も伝統を保ち続けるブランドの格式があり、各幕で効果的に使われる。


衣装もやはり素晴らしい。専門家が見ればどれだけの要素が発見できるだろうか。第1幕でも青、紫の上品な色合いに金の蔦が模様されていて、ただただ陶酔するのみ。服飾の細かい単語を知っていたらもっと味わえるだろうに。


舞台装置、道具だけでも博物館になれるだろうに、繰り広げられる物語が加わると、とことん舞台芸術は突き詰められている。小説との比較をするという愚かな行為をせずに、オペラはオペラの作品構成があることを踏まえて、演技と音楽に着目すると、人間の底の深さを思い知られる。


毎度素晴らしい出演者が出て、必ず引き込んでくる場面があり、今度も当然のように驚異的な歌声と演技に顔がひきつる。もはや鬼のようで、毎度毎度人間を超えたまさに超人の鬼が登場するので、慣れるというよりも、麻痺してしまう。ディアナ・ダムラウのどこまでも伸びる歌声と、表現の広さと深さ、それに細かく操られた歌唱技術と、演技力に、一流のオペラ歌手というのは、本当に選ばれた人なのだと納得してしまう。


メトロポリタン歌劇場に40年以上ぶりに常任音楽監督をおくということで、歴史的な人物となるヤニック・ネゼ=セガンの指揮は、細部が完璧に近い形で統率されていた。今回の舞台の練習風景のドキュメント映像が少しだけ流れ、たった一音にこめる表現への妥協なき追求の姿に、これほどまでに考えつくされ、求めて、この長大なオペラを作り上げているのかと、貴重な姿を観ることができた。


第2幕の、クイン・ケルシーとディアナ・ダムラウのやりとりが本当に素晴らしかった。バリトンのクイン・ケルシーは「アイーダ」でも荘重で、説得力ある歌声を披露していたが、今回も画面とスピーカーなのに心を揺さぶる響きがあった。


今作で、第5作目の2018~2019METライブビューイングの観賞となる。一つだってつまらない作品がない。贅を尽くしたこの劇場のパフォーマンスは、常に神に向かって観衆に味わってもらいたいという一心で団結されていて、ただ素晴らしい舞台を観て感動するだけでなく、その舞台裏の一流の人達の姿勢を観て、その磨き上げられた人間性を見本として自分の姿を少しでも矯正できる貴重な機会も一緒に与えてくれる。

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