12月29日(土) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第382回定期演奏会(延期公演)」を観た。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで広島交響楽団第382回定期演奏会(延期公演)を観た。


細川俊夫:冥想ー3月11日の津波の犠牲者に捧げるー


メシアン:輝ける墓


ストラヴィンスキー:バレエ「火の鳥」(1910年版 全曲)


指揮:準・メルクル

コンサートマスター:佐久間聡一


細川さんの曲は太鼓から始まり、その残響に意識を持っていかれる。一本の煙が立ち、それが燻り、それを見つめて、空気の中に消えていくのをいつまでも見るように音が耳に残る。テレビで細川さんのオペラ「松風」を見たせいか、この曲にも海の風が聞こえ、それは曇り空の、冷たく吹きすさぶ音で、着物の裾が揺られる響きだ。


メシアンは、トゥーランガリラ交響曲の和音が頭をかすめ、プログラム・ノートの説明に“多彩な和声法による独特な輝かしい音色──”とあり、そう云われるときらびやかな、不気味な星のような和音があるのをおぼろげに思い出した。弦の音色、木管楽器の音色が印象に残った。


ストラヴィンスキーの「火の鳥」は前日の公開リハーサルに、午前の後半の練習で通しを聴いて、すでに大いに感動していた。


前日とは違うホール、座席で異なった音響を聴いたが、この日も本当に素晴らしい演奏だった。準・メルクルさんはチェリビダッケに師事していたらしく、スケールの大きな指揮をたしかに感じた。しかしよぶんな薄皮を剥いで、曲の持つ純粋な美しさをむき出しにしている印象で、オペラの指揮経験も豊富なので、劇的に曲をまとめるのが非常に上手だと思った。この曲の物語も頭に浮かびやすく、オペラで感じるような音による明確な劇的効果を何度も感じた。きびきびした精力的な指揮同様に、音も端正にまとまり、鋭さと優しさを合わせ持ち、ジョージ・セルのような洗練された音を感じた。


この日は木管楽器群がとても良く聞こえた。打楽器も目立ち、金管も同様だった。ストラヴィンスキーで、オーボエさんの安定感はいつもどおりだが、ホルン、ファゴットが特に良かった。クラリネットも良く、管楽器が素晴らしいと、オーケストラが華やかで、豊かさがより一層増す。


今年も広島交響楽団の演奏会を幾つか観て聴いて、秋山さんとネルソン・フレイレさん、アルミンクさんに諏訪内さん、カーチュン・ウォンさんなど、素晴らしかった演奏会があり、下野さんは常に安定して質の高い音楽を聴かせてくれたなかで、今日の演奏会が最も素晴らしかったと思ってしまう。良い演奏会のあとは、常に思うことでもあるけれど、準・メルクルさんの今日は特別素晴らしかった。おそらくこの演奏会の位置づけと、準・メルクルさんの思い、関係者の思いを汲んでいるからかもしれないが、強く、音楽の力を語り、形にした準・メルクルさんの強さを、希望の一つの形として頼もしく思ってしまったのもあるだろう。


ストラヴィンスキーの代名詞のような「3大バレエ」の中で、エキゾチックな「春の祭典」、かわいらしい「ペトルーシュカ」と違い、この火の鳥の良さはまったくわかっていなかったが、昨日と今日の演奏を聴き、どのようなものがあるのか良く知ることが出来た。


今年の締めくくりとなる演奏会に、来れてよかった。

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